≪コタツ≫
外では木枯らしが吹き、本格的に寒くなってきた頃。
「ねぇ……そういえばコタツってないの?」
音々子は怜人にそう聞く。
「コタツ?必要ねぇだろ。冷暖房完備のこの家に」
「……そうだけど」
あっさりと言われた言葉に、音々子はしゅんとする。
「冬っていったら、やっぱりコタツかなって思って……」
「そうか?……俺の家にはコタツなんてモンはなかったがな」
その言葉に音々子は驚く。
「えぇ!?冬はやっぱりコタツでみかんでしょー」
日本でコタツのない家なんて、考えられない。
「……あぁ、そんなイメージは世間一般にはあるみたいだけどな。コタツがない家なんて普通にあるだろ」
「……確かに、施設にもなかったけどさー……」
そう。自分で言っておきながら音々子は、コタツに入った事がない。
だからこそ少し、“コタツでみかん”という構図に憧れていたのだが。
「……いいや。無い物は仕方ないしね」
そう言って音々子は苦笑した。
それから数日後。
怜人が家に帰ると、音々子が興奮したように駆け寄ってきた。
「怜人、おかえりっ!っていうか何アレ、何かお昼に届いたんだけどっ!」
「あぁ、届いたか」
音々子が言う“アレ”とは、コタツだった。
「もしかして、私が言ったから……?」
申し訳なさそうに言う音々子に、怜人はフッと微笑んで頭を撫でてやる。
「気にすんな。俺も一度、コタツでみかん食ってみたかったんだよ」
すると音々子は嬉しそうな笑顔になる。
「じゃあ早速コタツの用意するね!」
そうして意気揚々とコタツの準備を始めた。
そうしてコタツは、今ではすっかり音々子のお気に入りだ。
夕食後に怜人が風呂に入ってリビングに戻ってくると、音々子は大抵片付けなどを済ませてコタツにいる。
しかも。
コタツに入って、体を少し丸めて寝てしまっている事が多い。
「猫はコタツで丸くなる……か。まんまじゃねぇか」
音々子の姿に思わず笑って、怜人はその寝顔をそっと眺める。
「コタツってのも、悪くはないかもな」
そう呟いて、怜人は音々子が風邪を引かないように起こす事にした。
=Fin=