≪膝枕≫


 それは、ある休日の昼下がり。
 昼食を終えた怜人は自室で持ち帰った仕事を。音々子は片付けや掃除を終え、今は洗濯物を畳んでいた。

「あー……やーっと終わった……」
「お疲れ様ー」
 自室から疲れた顔をして出てきた怜人に、音々子は手を止めずにそう声だけを掛けた。
「……」
 その事に怜人は黙って音々子の傍に立つ。
「……怜人?どうかした?」
 怜人のその行動に、音々子は流石に手を止めて、彼を見上げる。
 すると。
「っしょっと……」
「れ、怜人っ!?」
 怜人は突然その場に横になると、音々子の膝に頭を預ける。
 その事に音々子は真っ赤になって、どうしたらいいか分からなくなる。

 何コレっ!?
 急に人の膝の上に寝転がったりして……。
 こ、これって俗に言う……膝枕?

 そこまで考えて、音々子は恥ずかしさでますます顔を真っ赤にさせる。
「れ、怜人っ、どいて!」
「……いーじゃねぇか、別に」
「だ、だって……」
 ゴロゴロと甘えるように横になっている怜人に、音々子は困り切って。
「〜〜っせ、洗濯物畳めないからっ!」
 叫ぶようにそう言った。
 だが怜人はそんな事、意にも介さずに言う。
「一日くらい、別にどうって事ないだろ」
 流石にその言葉には、音々子はムッとする。
「綺麗に畳まないと、折角洗ったのにシワになっちゃうじゃんか!」
 そう文句を言う音々子に、怜人はムクッと起き上がる。
「うるせーな……」
「ぅわっ!?」
 すると今度は、音々子の体を引っ張って、胡坐を掻いた自分の膝に寝かせた。
 そうして、そっと髪を撫で始める。
「考えてみりゃ、こっちの方が自然だよな。猫は人の膝の上で丸くなって寝る時もあるし」
「怜人!私、洗濯物畳んでる途中なんだってばー!」
「いーから大人しくしてろ。てか、仕事で疲れた俺を癒せ」
「……うん」
 その言葉に、音々子は素直に言う事を聞く。

 怜人は時々、癒される、と言っては甘えるような行動を取る事があって。
 そういう時は、大抵本当に疲れていたりするから。
 自分がこうする事で、怜人の疲れが取れるのであれば、と音々子はしたいようにさせる事に決めている。


 暫く怜人の膝枕で頭を撫でて貰っていた音々子だったが。
 怜人のその大きな手で撫でられるのは、とても気持ちが良くて。
 いつしか寝入ってしまった。
「本当、猫だよなぁ……」
 ククッと笑いつつも、音々子を見つめる怜人の瞳はどこまでも優しい。
「あー……何か俺も眠くなってきたな……」
 怜人はそう言って一つあくびをすると、片膝を立てて頬を付き、目を閉じた。


 たまにはこんな、お昼寝タイム。


=Fin=