怜人と暮らし始めて、大分経つ。
 だけど。
 未だに夢にうなされて、目が覚める。


≪目覚めたら≫


「……っ!」
 暗闇の中、目を覚ました音々子は辺りを見回す。
 そうして、隣に眠る怜人の姿を認めて、ホッと息を吐いた。

 大丈夫。
 夢じゃない。

 そう思って、喉がカラカラに渇いている事に気付いて、怜人を起こさないようにそっとベッドから出る。
 音々子が夜中に目を覚ますのは、これまでで一度や二度じゃない。
 悪夢にうなされて、怜人に起こされた事も何度かある。

「……いい加減、同じ夢は見たくないんだけどな……」
 そう呟きながらコップに水を注いで、それを一気に飲み干す。
「忘れるのは……無理なのかな……」

 音々子が見るのは、いつも決まって施設での記憶。
 その中では、怜人に出会った事は夢の中の出来事にされてて。
 でも。
 目が覚めると、いつもそこに怜人がいるから、こちらが現実なのだと実感する。

「音々子……また、同じ夢か?」
「怜人。ごめん、起こしちゃった?」
 気付くと怜人が起きてきて、ギュッと抱き締めてきた。
「……夢の中までは、助けてやれねぇからな」
 その声には、悔しさと辛さが混じっているようで。
 音々子は慌てて言う。
「怜人のせいじゃないよ?気にしないで」
「だが……」

「それに、目が覚めた時にいつも傍にいてくれるから……それだけで嬉しい」

 ギュッと抱き付いて頬を摺り寄せてくる音々子に、怜人は優しく頭を撫でてやる。
「当たり前だ。いつでも傍にいてやるから、安心しろ」
「うんっ」


 悪夢を見ても、自分を見失わないでいられるのは。
 目覚めたらいつでも傍に、貴方がいるから。


=Fin=