≪寂しさへの対処≫
最近、気付いた事がある。
怜人は時々、家で仕事をする時がある。
何といっても、怜人は一応社長。仕事を持ち帰る事だって当然ある。
そういう時、怜人は夕食後に数時間、自室に籠ってしまうのだが。
仕事を終えて自室を出ると、音々子は大抵夕食の後片付けを終えて、居間でテレビを見ている事が多い。
だが。
時々、ごく稀に自室に引っ込んでいる時があって。
この日も音々子は自室に引っ込んでいるようで、居間に姿が見えなかった。
怜人は仕事を家に持ち帰った時はいつも、音々子に「先に寝てろ」と言うのだが。
音々子は頑なにそれを拒んで、絶対に先に寝ようとはしない。
その理由はなんて事はない、ただ単に一人で寝るのが寂しいだけなのだ。
「部屋か……」
そう思って怜人は音々子に宛がった部屋のドアをノックする。
「音々子?そろそろ寝るぞ」
だが部屋の中から反応はなく、怜人はそっとドアを開ける。
すると音々子は、部屋の隅で丸くなって寝ていた。
その姿を見て、怜人はやれやれと溜息を吐く。
「全く、こいつは……」
施設で育った影響か、音々子はわざわざ狭い所に身を落ち着ける。
まるで猫そのもののような行動。
だが、猫と違うのは。
どうも、寂しいと感じている時だけ、こういう行動にでているらしい、という事だ。
これこそが、最近怜人が気付いた事なのだが。
「……自分の部屋なんだからソファとかで寝りゃあいいものを、わざわざ……」
そう呟いて、怜人は音々子を抱き上げる。
すると音々子は目を覚ました。
「怜人……?お仕事終わったの……?」
眠そうに目を擦りながら、ぼんやりとした口調でそう聞く。
「あぁ。だからちゃんとベッドで寝るぞ」
「うん……」
寝惚けているのか、音々子は安心しきったように怜人に擦り寄る。
これが常なら、恥ずかしがって暴れている所だろうが。
ベッドに音々子を横たえると、怜人は自分もさっさと寝る用意をする。
その間に音々子は既に夢の中なのか、スゥーと寝息が聞こえた。
それを聞きながら、怜人は音々子の髪を優しく撫でてやる。
「お休み、音々子」
そう言って音々子の額に軽く口付けると、その体を抱き締めて眠りに付いた。
何を言っても、先に寝ようとはしないし。
どうせ隅っこにいるんなら。
今度からは、仕事部屋に招いてやるか。
それなら、寂しくないだろう?
そう思って。
=Fin=