≪矛盾した行動≫


 怜人は時々、仕事が早く終わると、音々子を食べに連れて行く。
 最初の内は高級店に連れて行ったのだが、そういう店はドレスコードがあったりして。
 音々子が緊張してしまうのだ。
 一応、毎回個室を取って二人だけの空間にはなっているのだが、音々子はどうにも雰囲気的に馴染めないらしい。

 音々子曰く。
「だって、ドレスとか汚しちゃいそうだし。もっと気楽に食べれる方がいい」
 だそうだ。

 だから、怜人は毎回、ネットで人気のデートスポットの店とかを調べて、雰囲気の良さそうな、けれど音々子でも気後れしなさそうな店を選んで連れて行く。


 音々子は、あまり冷たいものを好まないのか、よく温かいものを注文する。
 だが。
「……音々子。料理、冷めるぞ」
「わかってるけど……っ」

 湯気の立つ、熱々の料理がきても、音々子はよく冷ましてから口に運んで、時間を掛けて食べる。
 熱い物は熱々の内に食べる方が美味しいだろうに、音々子はそれをしない。
 それはただ単に、音々子が猫舌だから、というだけなのだが。

「……お前、猫舌なのに熱いの頼んで、それを冷ましてから食べるって……おかしくねぇか?」
「っだって……温かい方が食べたいんだもん」
「だから。冷えたら意味ないだろ」
「ちゃ、ちゃんとまだ温かいし!」
「そうかぁ?もう冷めてるだろ、それ」
 普通の人なら、もう殆ど冷めていると表現する料理を、まだ温かいと言い張る辺り、どれだけ熱いのがダメなんだ、と言いたくもなるが。
「……矛盾してんなぁ、お前」

 からかうようにそう言うと、ムキになって反論してくる音々子が、また可愛くて。
 怜人はついつい、怒らせるような言葉を選んでしまう。

 それもまた、ある意味矛盾した行動ではあるのだが。


 何だかんだ言いながら、これが二人の外食時の、毎回のパターンだったりする。


=Fin=