≪朱夏ちゃんの弱点≫
「……っ!」
ある昼休み、突然様子の変わった朱夏に、智と璃琉羽の二人は首を傾げる。
「朱夏?」
「どうかしたの?」
だが朱夏は硬直したまま何も答えず、そんな彼女に気付いたのか、愁が傍に来た。
「朱夏?何かあったのか?」
愁がそう声を掛けると、その瞬間朱夏がいきなり彼に抱き付いた。
「愁……っ!」
「……!?」
その事に周りはザワッと、一瞬騒然となる。
「しゅ、朱夏?抱き付いてくるのは嬉しいんだけど、この状況はちょっと……」
困惑しながらそう言う愁に、だが、朱夏はただ震えるような声である一点を指差した。
「あ……あれ……」
「アレ?」
そうして朱夏が指し示した先には。
「ゲッ!ゴキ!」
そう、ゴ○ブリ。
その事にクラス中の女子生徒が悲鳴を上げる。
「キャーッ!何で教室にっ!?」
「てか男子!早く退治してよ〜っ!」
その声に、何人かの男子生徒がいい所を見せようと動いた。
そうして数分後。
「朱夏、もう退治したから平気だぞ?」
「ほ……本当?」
そうして愁を見上げた朱夏の瞳は多少潤んでいて。
だが今の状況に気付くと、顔を真っ赤にさせ勢いよく愁からバッと離れる。
「ご、ごめん!」
「いや……あーでも、お前のこういう女らしい反応初めて見た。お前でも苦手なモノあったんだなー」
それにしても意外だ。
朱夏が悲鳴もあげれない程、アレが苦手だったなんて。
男勝りのあの性格なら、全然動じずに倒してそうなのに。
愁はそう思いながら、朱夏の意外な弱点にニヤニヤするが、彼女はそれに気付かずげんなりして言う。
「アレは天敵……」
「あーもーお前可愛すぎ」
そう言って愁は朱夏を抱き締める。
「ちょ……っ!?離しなさいよバカーーっ!!」
朱夏は真っ赤になってそう叫んだ。
いつもなら、強がって平気なフリをするのに。
弱点を曝け出せるのは、相手を好きな証拠。
=Fin=
朱夏ちゃんの意外な弱点