≪理屈じゃなくて≫


 絹川朱夏。俺の彼女。
 女にしては背が高い方で、性格は勝気。
 どっちかというと、タイプじゃない。
 自分でも何でこんな女……って思うけど。
 でも、誰かを好きになるのって、そもそも理屈じゃない。


 初めて朱夏を見たのは一年生の時。その時は別のクラスだったし、ただ背の高い女がいるなって思っただけで。
 朱夏は色んなトコで、何かと目立つ存在だったから。
 多分、ウチの学年で朱夏を知らない奴はいないだろうっていう位。

 そうして二年になって同じクラスになって。
 最初は気に留めてなかった。
 サバサバしてて、誰に対しても分け隔てなく接する姿は“姉御”って感じ。
 俺としては普段、絶対恋愛対象として見ない存在。

 だけど、気付いてしまった。
 時々、誰にも弱みを見せまいと、強がって一人でじっと耐えてる事に。

 本当は、女の子らしく見られたくて。
 でも、素直になれなくて。
 勝気、男勝り、女らしくない……。
 そんな周りの言葉に、傷付いて。
 泣きたいのを必死に堪えてる、そんな姿。


 それからは、どうしても気になって。
 でも、最初の頃はどう接したらいいか分からなくて。
 同じくらいの背だったし、朱夏も背の高さは気にしてるようだったから、取り敢えず牛乳を飲ませない事ぐらいしか思い浮かばなくて。
 それじゃガキの意地悪と変わらねぇじゃん!とか思ったけど。

 ……他に思い浮かばなかったんだ。朱夏に、俺を意識してもらう方法なんて。

 でも暫くして、多少意識してきたかなっていう自信はあった。
 だからって流石にクラスメイトの前で理由を問われた時は焦って、思わず傷付けるような言葉を言ってしまったのは失敗したけど。
 でも、どうしても諦め切れなくて。
 夏休み前に告白して、良かったと思う。
 一ヵ月半、逢わない時期が続いたらどうなってたか分からないから。


 ……多分、朱夏は簡単には素直になれないから。
 こっちが多少強引に進めるくらいが丁度いいんだ。

 で、時々突拍子もない事するから。
 振り回されるけど、それでもいいかなって。
 だって、相手が朱夏だから。

 朱夏が好きだから。

 こればっかりは本当にもう、理屈じゃないんだ。


=Fin=