朱夏と付き合うようになってから、愁は時々聞かれるようになった事がある。
「お前さー、絹川なんかとよく付き合う気になったよなー」
言葉は違えど、大体似た内容。
愁はそれが堪らなく不快だった。
≪見えない部分≫
朱夏は確かに、勝気で男勝りで、一言で表すなら“じゃじゃ馬”だ。
言いたい事は大抵ズバッと言うし、その口調もかなりキツめで。
姉御肌だからか、男よりも女にモテるタイプ。
つまり、誰かに可愛がってもらえる、というタイプじゃない。
だけどな。
ああ見えて女の子らしい一面もあるんだ。
まず、料理が得意だ。特にお菓子作り。
よく部活の大会とかに女子部員に振舞ってるらしい。
勿論、それだけじゃない。
朱夏は家事全般何でもできる、家庭的な一面がある。
きっと結婚したらいい奥さんになるんだろうなー、っていう感じ。
性格面を言わせてもらえば、確かに普段はじゃじゃ馬なんだけど。
時々、突拍子もない事するけど。
でもそれは、朱夏なりの努力の表れ。
自分の事、可愛げがないと思ってるから、ちょっとでも女の子らしい事をしたがるんだ。
勿論それは、全部彼氏である俺の為。
朱夏は時々、早とちりして勘違いしていじける傾向にある。
それはちょっと勘弁してもらいたいんだが。
どうもそれは、自分の性格をきちんと分かってるから、自分に自信がなくなって、一人で悩んで暗い方に思考が傾いていくらしい。
だけど。
誤解が解けた時の朱夏は、顔を真っ赤にさせて、本当にその辺の女の子となんら変わらない反応をする。
普段とのギャップがあるだけに、それがもうめちゃくちゃ可愛い。
他にも、意外に寂しがりやな面とか。
照れ隠しにちょっと強がってみせるトコとか、色々あるけど。
そういう一面は、彼氏の俺だけが知っていればいい。
てか。
他の男なんかに絶対教えたくない。
そんな事を内心で思いながら、愁は不快な事を聞いてくる輩に言う。
「まぁなー。俺もよく付き合ってるなぁとは思うけど」
「そう思うなら別に、お前だったらモテるだろうに」
「そうなんだけどなー。何でだろうなー?」
適当にそう言いながら、愁は心の中で言った。
他の女?冗談じゃない。
今更、朱夏以外の女なんて考えられるかよ。バーカ。
=Fin=