私のお兄ちゃんは。
妹の私が言うのもなんだけど、成績優秀で品行方正、ルックスも抜群で。校内に私設ファンクラブまである。
月羽矢学園高等部には五人の有名人がいるんだけど、その中の一人に入ってるし。
そんなお兄ちゃんにある時、特定の彼女が出来た。
≪千春ちゃんの疑問≫
私達兄妹は、昔から月羽矢学園に通っているんだけど、お兄ちゃんが校内で彼女を作った事はない。
理由?勿論、ファンクラブがあるから。
お兄ちゃんて、誰にでも優しい優等生で通ってるんだけど、実は結構黒い。
笑顔の裏で、絶対に他人を見下してる。
……見下す、っていうのは変かな。ええと、お兄ちゃんの見た目や、上っ面だけを見て近付いてくる人間を煩わしそうに見ている、かな。
きっと他人に興味がないんだと思う。
で、学校の人間はそんな人達ばかりだし。
折角優等生で通っているんだから、校内でそのスタイルを崩すような真似はしたくないらしくて。
今まで付き合った彼女は、絶対に他の学校の人。
で、家で電話してる時があるんだけど……彼女と思われる相手の名前が毎回違うのはどうしてなのかな……?
きっと、一人の人と長く続かないんだよね。うん、そう思っておこう。
だってお兄ちゃん、どっちかっていうと好きな子を苛めるタイプだもん。
……それに深く追求して考えても、きっといい事はないだろうし。
基本的に、私とお兄ちゃんが校内で接触する事は殆どない。
だって、お兄ちゃんとお近付きになりたい人が、私に媚を売ってくるんだもん。
でも、兄妹仲が良くも悪くもないなら、そういう事もなくなるでしょ?
そんなある日。
「ねぇねぇ、千春ちゃん!お兄様、彼女が出来たの!?」
そんな風に興奮しながら聞いてきたのは、同じクラスの子。私設ファンクラブ所属。
「知らないけど……どうかしたの?」
「さっき!凄く親しそうに登校してきた相手がいるのよ!」
「……登校、してきた……?」
それを聞いた時、まず思ったのが“珍しい”。
次に思ったのが、“きっと誰もが認めるくらい、凄く可愛らしいか、凄く美人なんだろうな”って事。
でも、実際に本人を目の当たりにして、驚いちゃった。
お兄ちゃんの彼女は、大して可愛くも美人でもない、少しキツそうな感じの人だったから。
でも、話してみたら印象が全く違って、また驚いた。
キツそうに感じたのは、ただ単に目が悪いせいで。
実際には礼儀正しいし、優しい人だった。
「……ねぇ、春江さん。お兄ちゃんの彼女、どう思う?」
春江さんっていうのは、ウチの家に週に数回来てもらってる、通いのお手伝いさん。
「確か、時音様でしたか?とても礼儀正しくて良い方だと思いますが」
「そうだよねぇ……」
「……もしかして、千春様は反対なのですか?」
「ううん。お兄ちゃんが誰と付き合おうと、それは構わないんだけど……何で付き合ってるのかなって」
「それは、道行様がお優しいからでは?」
「……」
そうだった。春江さんはお兄ちゃんの地をまだ知らないんだった。
結局、どうしてなんだろう、って疑問は残ってしまって。
だってお兄ちゃんが『特定の誰かと』『校内で』『長続きしてる』っていうのが意外なんだもん。
そうして暫く経ったある日。
「あ〜あ、久我様の彼女が羨ましい……」
そんな事を言ってきたのは、同じクラスのファンクラブの子。
「……どうかしたの?」
「だって、あの久我様が毎日送り迎えしてくれるのよ?素敵じゃない」
「……送り迎え?」
「そう!朝は家まで迎えに来てくれて、帰りはわざわざ彼女の部活が終わるまで待って、家まで送ってるみたいなの」
その話は、妹の私にとって信じられない内容で。
お兄ちゃんの性格からして、そんな面倒臭い事をするなんて有り得ないと思うんだけど。
でも、と思い返してみると。
ウチの家から月羽矢学園まではバスなんだけど、最近のお兄ちゃんはバス停を素通りして行っちゃう。
しかも、いつもより早く家を出るようになったし、帰りも遅くなった。
……って事は、真実?
また別の日は、別の子に言われた。
「昨日、彼女とデートしてるお兄さん、見かけたよ」
「そうなんだ」
「なんか、彼女の腰に手を回して街中を歩いてたんだけど……普段のイメージとちょっと違うから、他人の空似かと思っちゃった」
それを聞いた私は、バカップルを思い浮かべたんだけど。
……それこそお兄ちゃんて、そういうベタベタした感じって嫌いだったと思うんだけど。
「でもさ、彼女の方が恥ずかしそうにしてて、嫌がってたんだよねー。でも、満更でもなさそうだったから……あれがツンデレって言うのかな」
……それはそれは、物凄く弄り甲斐がありそうな反応してるんだなぁ、時音さん……。
まぁ、だからこそお兄ちゃんが気に入ったのかも……。
普通の人なんか、きっと一も二もなく自分からしな垂れかかって甘えてると思うし。
って事は、お兄ちゃんの方が時音さんにベタ惚れしてるって事なの!?
そんな折、ある休日の日に時音さんが家に来た。
今日は雨の予報だったから、お家デートなんだろうけど……。
「道行、流石にさっきのはやりすぎだと思うよ?」
んん?何か揉めてる……?
「そうか?少し忠告しただけだろ」
「あのね……絶対零度の微笑み浮かべながら言うのが間違ってるの!あれ、相手には物凄い威圧感あって怖いんだよ?」
「何言ってるんだ、あれくらいで丁度いいんだよ。そもそも、お前は俺のモノだろう?」
「それは……そうだけど。もう……」
何の話をしているのか、よく分からなかったけど。
お兄ちゃん、あれ地だよね……?
時音さんには地を晒してるんだぁ……。
というか、あのお兄ちゃんに面と向かって意見を言える人なんて、初めて見た。
お兄ちゃんは基本的に、周りから信頼されまくってるから、大抵の物事はすんなりと通っちゃって。
異論も出ないくらいなのに。
でも、何となく分かった。
きっと時音さんは、お兄ちゃんの事を内面まできちんと理解した上で。
それでもちゃんと自己主張ができるから。
だからお兄ちゃんは時音さんの事を好きになったんだ。
だって、笑顔を見れば分かるもん。
お兄ちゃんてば、本当に心からの笑顔で。
いつもの笑顔は、冷ややかさがあるんだけど、時音さんに向ける笑顔は凄く温かい感じ。
多分、この違いは身内にしか分からないと思うけど。
で、納得したのはいいんだけど。
「ちょ、道行、ここまだ玄関!」
「別にいいだろ」
「よくないっ!……っん」
……家の玄関でキスするとかやめてもらえないかな……。
=Fin=
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・久我 千春(くが ちはる)……月羽矢学園高等部一年。道行の妹。恋愛shortstory「LOVE☆ゴースト」に登場。
・春江(はるえ)……週に数回、久我家に出入りしているホームヘルパー。
・上条 時音(かみじょう ときね)……月羽矢学園高等部二年。道行に振り回されてる女の子。
・久我 道行(くが みちゆき)……月羽矢高等部二年。時音の彼氏。時音に言わせれば、腹黒俺様野郎(笑)
スズキ様、大変お待たせ致しましたw
リク内容は二人の周囲の人視点でラブラブ度満開の話(もしくは二人の将来の話)、という事でしたが、こんな感じでいかがでしょうか?
ご期待に沿うものであれば良いのですが……。
では、165000HITキリ番、おめでとうございます☆