基本的に、道行と時音は休日はいつもデートだ。
だけど。
「道行、今度の日曜なんだけど、買い物に行く予定が入っちゃったんだ」
「家族と?」
「うん、そんな感じ」
「ふぅん」
そんな感じの話を、週の半ば辺りにして。
まぁ、毎週毎週デートっていうのも何だし。
予定が入ったなら仕方がない。
そこまで縛り付けるような事はしないし、たまにはプライベートな時間も必要だ。
だからその日道行は、久し振りに一人で過ごす休日になった。
≪嫉妬≫
道行は午前中に簡単に授業の予習と復習を済ませて、午後から読書をして時間を潰す事にして。
「……あー……確かこの小説の続き、もう発売してたか……」
そう思った道行は、書店に出掛ける事にした。
道行の家の近所で一番大きな本屋は、駅前のデパートに入っている書店だ。
何か他にも面白そうな本があれば、ついでに購入するかと考えて、デパートの中に入っていくが。
「……時音……?」
道行は偶然、時音を見つけた。
……知らない男と歩いている時音の姿を。
だがその姿はすぐに人混みに隠れて見えなくなってしまう。
「誰だ、アイツ……っ」
今見た光景に、道行は不機嫌そうに顔を歪める。
時音は家族と買い物に行くと言っていた。
だが、今横にいた男はどう見たって二十代だ。
少し年の離れた姉がいる、とは聞いた事があるが、兄がいるとは聞いていない。
道行はすぐに携帯から電話を掛ける。
すると、時音はすぐに出た。
『どうかした?道行』
その事に道行は、あくまでも表面上は穏やかに話す。
「あぁ、時音。今何してる?」
『何って……買い物、だけど。今日行くって言ったよね?』
「誰と?」
『誰とって……』
その時。
電話の向こうで、微かだがハッキリと男の声がした。
『時音ちゃん、コレなんかどうかな。似合うと思うんだけど……っと、電話中?』
その内容はまるで、デート中の彼氏が彼女に似合うモノを選んでいる、というもので。
しかも。
『あ、学さんごめんなさい……道行、用が無いなら切るね』
時音はあっさりそう言うと、電話を切ってしまった。
「な……っ!“学さん”だと……?」
その親しげな様子に、道行ははらわたが煮えくり返りそうになる。
俺という彼氏がいながら。
嘘を吐いて他の男と一緒に出掛けたばかりか、親しそうに名前で呼んで。
「……時音……ただで済むと思ってるのか……?」
道行はそう呟くとデパートの中を探し始める。
その目は完全に据わっていて。
だが、結局見つける事はできなかった。
そうして次の日。
いつものように時音を迎えに行った道行は、道の途中で時音を細い路地に連れ込んだ。
「ちょっと、道行?どうし……」
言葉の途中で時音は、道行が絶対零度の微笑を浮べているのを見て、固まった。
口元は笑みの形なのに。
目が笑ってない。
これは何かに怒ってる。
でも……何に?
そう思いつつ、時音は身構える。
「あの後、何した?」
「あ、あの後……?」
「どこかに寄って、楽しんだ?」
「何の事……?」
だが道行はその答えも、時音の身構えるような態度も気に入らなかった。
道行は目を細めると、噛み付くようなキスをする。
「ん……っ!?」
「あの男は誰だ」
キスの合間にそう囁くと、時音は目を瞠った。
「見てたの?」
「偶然な。……なぁ、アイツと俺、どっちが気持ちよかった?」
「な……っ!?」
その言葉に、時音が顔を真っ赤にさせた事に、道行は目尻に皺を刻む。
「俺の方がイイって、言わせてやるよ」
そう言って道行は時音の手を乱暴に掴むと、学校とは反対方向に歩き出した。
「ま、待ってよ道行!誤解だって!」
「何を今更」
時音の抗議に、道行は全く歩を止めようとはしない。
だから、引き摺られる格好のまま、時音は言った。
「あれはお姉ちゃんの婚約者!」
するとその言葉に、道行はピタッと足を止めた。
「……婚約者?時音の姉の?」
「そうっ!もう結婚式の日取りも決まってるの。だからあの人……学さんはもう私の義理のお兄ちゃんで。家族みたいなもんでしょ?」
「……成程。だがそれは二人きりで出掛ける理由にはならないな」
「今度お姉ちゃんの誕生日なの。それで、ビックリさせたいから、ってプレゼント選びの手伝いを頼まれただけ!」
「……そう、か……」
そうして深く息を吐く道行に、時音はふと思った事を口にする。
「……ヤキモチ、とか?」
すると道行は、つい、と顔を背けた。
「ヤキモチ、なんだ」
そう言って嬉しそうな顔をする時音に、道行はムッとする。
「……うるさい」
そうして道行は、時音の顎に手を添えて、自分と視線が合うように顔を上向かせて言う。
「時音。今後は軽々しく他の男と二人きりで出掛けるな。例えそれが未来の義兄だとしても、だ。いいな?」
「……もし、出掛けたら?」
「何。お前、俺の事怒らせたいの?」
その言葉に何かよからぬ事を感じて、時音は首を横に振る。
「いえ、遠慮しときます……」
「よろしい」
そう言って道行は、時音の唇に軽いキスを落とした。
お前は俺のモノだ、時音。
その隣に別の奴を連れて歩くなんて、許さないからな?
=Fin=