「お願いっ!時音、この通ーりっ!」
「いや、でも……コレばっかりは私の一存じゃ……」
時音は先程から数人の女生徒に囲まれて困っていた。
その理由とは。
「一生のお願いっ!久我君をデッサンのモデルに使わせて!」
というものだった。
≪モデルの条件≫
時音は美術部に所属している。
だが、美術部員でまともな活動をしているのはごく一部で、その他はもう馴れ合いになっている。
そんな状況を打破しようと部長が考え出したのが、『デッサンのモデルを久我君に』という事らしい。
確かに道行は女生徒の間で人気はめちゃくちゃ高いし、美術部員はその大半が女生徒。
道行をモデルにすれば一気に皆のやる気が出る、というものだ。
そこで道行の説得役として、彼女でもある時音に白羽の矢が立ったのだ。
「上条さんも美術部員なんだし、少しは部の為に貢献してよ」
「いや、でも私は真面目に絵を描いてますしっ」
「てか、私たちがお願いした位じゃ、久我君は首を縦に振ってくれないのよ〜。だからここは、彼女の立場から説得して欲しいの」
「わ、私が言ったからってそう簡単に首を縦に振るとも考えられないんですけど?」
そう言いながら、時音は道行の反応を想像してみる。
『は?何で俺が……そんなの引き受けてくるんじゃねぇよ』
「……」
うん、マズイ。
絶対怒られる。
てか、そのせいでどんなしっぺ返しがくるか分からない……っ!
「あの、やっぱりお断りし……」
「時音?まだ部活終わってないのか?」
時音がきちんと断ろうと思った矢先。
タイミングの悪い事に、道行が迎えに来た。
すると部長以下数名の女生徒が、道行に直接交渉しに行く。
「久我君、お願いがあるんだけど……美術部のデッサンのモデルになってくれない?」
「上条さんも美術部員だし、彼女を助けると思って!」
その言葉に時音はサァッと血の気が引いた。
何て事言うの、バカーーーーーっ!!!
そんな風に声にならない叫びを上げていると、バチッと道行と目が合った。
「っ!」
そうして道行は時音から目を逸らすと、暫く何かを考える仕草をしてから言った。
「いいですよ。一日だけなら引き受けます」
「え……本当に!?」
「わぁ……!じゃあ、いつならいいですか!?」
そう言ってワイワイと盛り上がる部員達とは違って、時音は唖然としていた。
道行が、二つ返事で引き受けた……!?
絶対に渋ると思ったのに。
もしかしてコレは。
何かの前触れ……?
時音がそう考えていると、再び道行と目が合った。
その表情は極上の笑顔で。
時音は物凄く嫌な予感がした。
その日の帰り道。
「時音。モデルの事なんだけど」
「な、何っ!?」
「時音が俺を引き込む為のだしにされるから……お蔭で引き受ける羽目になったじゃねぇか」
わざとらしくそう言う道行に、時音は思わず反論する。
「な……二つ返事で引き受けたのはそっちでしょ!?嫌なら断れば……」
「へぇ?時音はそういう事言うんだ」
「っ!」
しまったとは思うが、時既に遅し。
「時音?モデルを引き受けるに当たって、いくつか条件があるんだけど」
「条、件……?」
「勿論、呑んでくれるよな?」
逆らう事を許さない絶対的な笑みに、時音は力なく項垂れた。
「はい……」
後日道行は約束した通り、美術部の一日モデルを済ませ。
時音は道行の言う“条件”に従った。
=Fin=
道行の“条件”とは何だったんでしょうか?