≪完璧≫
定期テストの結果を見て、時音は思わず呟いた。
「……道行って、頭いいよね」
「何を今更」
道行は学年トップの秀才で。
全教科満点とかはよくある事だ。
「成績優秀、品行方正、おまけに女の子からの人気も絶大で……何かもう、これ以上ないっていうくらい完璧だよね」
時音は半ば呆れたようにそう言う。
まぁ、品行方正っていう部分に関しては、普段は仮面を被っている訳だから実際には違うだろうが。
すると道行は、馬鹿馬鹿しいといった感じで言う。
「完璧な人間なんて、この世にいない」
「そう?私からすれば、道行って出来ない事なさそうだけど」
「まさか。俺にだって出来ない事ぐらいあるし。……もし完璧な人間がいるとすれば、それは神か、じゃなきゃロボットだな」
「……出来ない事、あるんだ」
「少なくとも、絵は俺よりも時音の方が上手いんじゃないか?」
そう言われて、時音は成程と思う。
確かに絵に関しては美術部の時音の方が上手いだろう。
道行は、なおも続ける。
「弱点や欠点があるから、人は面白いんだ」
「……仮面被ってる所は確かに欠点よね」
「それくらいならバレなきゃいいんだよ」
その言葉に時音は密かに、やっぱり腹黒なトコは欠点だよね……、と思う。
「それに、完璧な人間なんて、つまらないと思うぞ?」
「つまらない?」
「人は探求し、挑戦して、成長する生き物だ。何でもかんでも最初から完璧に出来たらつまらない。
勉強もゲームも、それこそ絵を描く事だって、今まで上手に出来なかった事が出来るようになるから、嬉しいし、達成感もあるんだろう?
それにそもそも完璧って事は、そこで終わりって事だろ?向上心を失ったら、人間ダメになるだけだ。何たって、それ以上成長できないんだからな」
道行の言葉は。
何だか難しくて、でも何となく言いたい事は分かった気がする。
「ヒトの成長に限界がないからこそ、文明は発展し続ける。それによる弊害は多いけどな。だから、完璧な人間なんて在り得ないんだよ」
「……うん。何となく分かった」
「それは良かった。ただ……時音はもうちょっと成長した方がいいな」
「?」
「全教科赤点スレスレはないだろ」
呆れたように言われた言葉に、時音は慌てる。
「ちょ、人のテストの結果、勝手に見ないでよ〜!」
だが道行は、口の端を上げて悠然と微笑む。
「今度からテスト前は勉強会だな。もしそれで成績が上がらないようなら……分かるよな?」
「……どうせお仕置きとか言うんでしょ」
「当たり」
その言葉に溜息を吐いて時音は呟く。
「……全く、そういう所も欠点の一つではあるわよね」
「何か言った?」
「別に?」
取り敢えず。
道行の欠点を知っているのは私だけだし、それはそれでいいかなとも思う。
別に私は、彼氏に“完璧”を求めてる訳じゃないし。
それに。
完璧じゃないからこそ、お互いの気持ちも徐々に深まっていくのだと思えば、それはそれで楽しそうだし、ね。
=Fin=