月羽矢学園では、生徒会役員は前任者の指名制になっている。
その新生徒会役員メンバーの発表は、十二月に行われる。
実際の活動は年明けからだ。
そうして、十二月に入って初めての生徒集会が開かれた時。
誰もがその目を疑った。
新生徒会長が、久我道行ではなかったのだから。
≪生徒会≫
生徒会役員は事前に誰が任命されたのか、本人以外直前まで分からないようになっている。
他の者と同じようにクラスの列に並んで。
名前を呼ばれたら壇上に上がるのだが。
道行の名は最後まで呼ばれなかった。
誰もが信じられないとざわめきが起こる中、道行だけは涼しい顔をしていた。
「……何で生徒会長が道行じゃないの?」
その日の帰り道、時音は道行にそう聞く。
「もしかして、断ったの?」
「いや?打診もされなかった」
その言葉に、時音は驚く。
それもその筈、誰もが内心「最初に生徒会長に指名されたが断ったのだろう」と思い、そう噂していたのだから。
「何で?」
「知らねーよ。ま、断る手間が省けたからいいけどな」
「……断るんだ……」
そう呟いて、でも、と時音は思う。
「何で道行に生徒会長の打診がなかったのかなぁ?」
誰もが時期生徒会長は道行だと思っていたのに。
「案外、俺の性格見抜いてたりしてな」
道行はそう言って笑う。
「あーでもやっぱり生徒会ってのはちょっと魅力的だったかも」
「魅力的?何が?」
「生徒会室。鍵掛けれるし、役員ならいつでも使えるし。な?」
ニヤリと笑う道行によからぬものを感じて、時音は思わず怒鳴った。
「何考えてんのよ、バカッ!」
その顔を、真っ赤に染めて。
=Fin=