≪お人好しにも程があります≫


 私の彼はヘタレです。
 なさけない、と表現した方が正しいでしょうか?
 嫌だと思っていても、人からの頼まれ事は断れません。
 そちらを優先して、自分の事を後回しにしてしまうから、結構損な性格だと思います。
 しかもそれをその人のせいに出来ずに、落ち込んでいます。

 まったく。
 その性格はどうにかできないのでしょうか?


 自己紹介が遅れました。
 私は麻生火乃子といいます。
 そして、ヘタレな私の彼は結城茂馬といいます。
 あ、でも。
 私は彼の良い所を沢山知っているし、茂馬君の事はちゃんと大好きですよ?

 茂馬君と私は高校生です。
 でも、同級生だけどクラスが違います。
 同じクラスだったら良かったんでしょうけど。


 帰りのHRが終わってすぐに私は茂馬君の教室に向かいます。
 だって早く行かないと、彼の事だから……。

「……茂馬君。何してるの?」
「かのちゃん。えっと……日直の仕事、かな」

 茂馬君は私の事を、“かのちゃん”と呼んでくれます。
 ……それは置いといて。

「……茂馬君。今日の日直当番の名前の所に、茂馬君の名前が書いてないのは、私の気のせいかなぁ?」
「あのね、かのちゃん。今日の日直の人はね、委員会の集まりがあって、早く行かなくちゃいけないらしくて……」
「それ、担任の先生が言ってたの?」
「……ううん」

 やっぱり。

「茂馬君。そういうのは引き受けちゃダメっていつも言ってるでしょう?」
「でも……」
「でもじゃない。茂馬君だって、図書委員の当番でしょ?」

 茂馬君は今日、放課後の図書委員の当番。
 早く行かないと、怒られる事分かってるのに……。
 私は今日の日直当番の名前をもう一度見て思い出します。
 この人ならさっき、別のクラスで友達とお喋りしてたハズ……!

「茂馬君は帰り支度しててね?すぐ戻ってくるから」
「うん……」

 私はニッコリと微笑んで教室を出ます。
 すると問題の日直当番が、丁度前方の教室から出てきました。
 ナイスタイミングです。

「ちょっと!茂馬君に委員会だって嘘ついて日直押し付けといて、自分は帰る気!?」

 回り込んでそう言うと、ゲッ、という声が聞こえました。
 この人は過去、何度も自分の仕事を茂馬君に押し付けてる常習犯です。
 そして何度も私に怒られてるので、つい、ゲッ、と言ったんでしょう。

「茂馬君はこれから図書委員の当番なの!遊ぶ用事しかないアンタと違って、ちゃんと自分の用事があるの!分かったらとっとと教室戻って自分の仕事しなさい!」
「わ、分かったよ」

 ビシッと指を突きつけてそう言うと、彼は慌てて教室へと引き返していきました。
 で、私も茂馬君の所に行くと。

「じゃあこれ、悪いけど先生の所に持って行ってね?」
「うん」

 茂馬君は別の子から、また何か用事を押し付けられていました。

「……ちょっと待った」
「げっ……麻生、さん……」
「茂馬君、このプリントは?」
「えっと……数学の課題プリント」
「で、彼女は?」
「ウチのクラスの数学連絡係」

 ウチの学校は。
 各教科ごとに連絡係がいて。
 事前に授業内容の確認(教室移動が無いかどうか)とか、課題を集めて持っていく、というのが仕事内容で。
 つまり。

「それは彼女のお仕事だよねぇ?」
「でも……彼女、これから塾があるらしくって急ぐって……」

 茂馬君の言葉に、その子は明らかにヤバイという顔をしてて。

「塾、ねぇ……?そんなの、ソッコーで職員室に持っていけばいいだけでしょ。鞄持って。たかだか40枚のプリントが重くて鞄まで持てません、とか言わないわよね?」

 そうして私は茂馬君の持っているプリントを彼女へと手渡して。

「職員室に行ったって5分も変わらないんだから、ご自分でどうぞ」

 そうして困惑気味の茂馬君に向かって言います。

「さ、茂馬君。早く図書委員の当番行かないと」
「う、うん」


 でも結局、茂馬君は怒られてしまって。

「……かのちゃん。僕ってどうして、こう要領が悪いのかなぁ……」
「茂馬君のせいじゃないよ?茂馬君に用事押し付けたあの人達が悪いの」
「でも……彼等にだって、用事はあったんだから……」

 ああもう。
 どこまでお人好しなんでしょうか?
 お人好しにも程があります。

「あのね、茂馬君。いくら相手に用事があっても、自分にも用事がある時は、自分を優先させなくちゃダメでしょう?」
「でもね?困ってる人を見ると、放って置けないっていうか……」

 ああ、それは良く分かります。
 だって、私も困っている時に彼に助けて貰いましたから。

「……それは茂馬君の長所だよね」
「そう、かな……」

 そう。お人好しな性格は、言い換えれば彼の長所なんです。
 それに漬け込む人達が悪いんですよ。
 だから。
 これからも、彼のフォローをしていきたいと思います。

 今度はどんな出来事が待っているんでしょうか?


=Fin=