≪謝り過ぎです≫
私の彼はヘタレです。
なさけない、と表現した方が正しいでしょうか?
何かあったらすぐに自分から謝ってしまいます。
自分に100%非が無くても、です。
まったく。
その性格はどうにかできないのでしょうか?
初めての方も、そうでない方もこんにちは。火乃子です。
今回も茂馬君がいかになさけないかをお伝えしたいと思います。
……そう言うと、何だか私が茂馬君を好きじゃないみたいですね。
勿論そんな事はありませんが。
多分、この世界中で茂馬君の事を一番好きなのは、自分だと自負していますので。
私と茂馬君は、小学校からの付き合いです。
恋人同士になったのは、最近ですけれど。
それはまた今度、機会があったらお話ししますね。
茂馬君は、それが口癖なの?と言いたくなる程、しょっちゅう謝ってばかりいます。
だから私は、ちょっと数えてみる事にしました。
小学校から一緒の茂馬君は、勿論ご近所さんです。
なので、こういった観察事には丁度いいです。
だって、朝一番から数えられますからね。
「……朝の登校時だけで、既に23回……」
「かのちゃん?何か数えてるの?」
「……ちょっと、ね」
ビックリしました。
登校時だけでもう23回も謝っています。
その殆どが、駅と電車の中なんですけれど。
人込みでぶつかってしまうのはしょうがないと思います。
というか、どちらかと言うと茂馬君の方がぶつかられているんですが。
だって茂馬君は、いつも端っこの方を歩いているんですから。
電車の中でだって、カーブとかは仕方ないじゃないですか。
どれだけ踏ん張ってても、人の波には逆らえませんからね。
茂馬君はカーブでよろけたピンヒールの女の人に、思いっ切り足を踏まれていました。
あれは痛いと思います。
なのに、慌ててこちらを見た女の人にまで謝っていました。
女の人は、そのまま“自分は悪くない”といった感じで、謝りませんでした。
……茂馬君、そこは絶対に相手の女の人が謝る所ですよ……。
茂馬君は、足の痛さに顔を歪めていました。
電車を降りてすぐに足の甲を見ましたが、ちょっと赤くなってるだけで、大した事じゃなかったのだけが幸いです。
茂馬君は、そこでも謝りました。
“心配掛けて、ごめんね?”と。
……私にまで謝る事はないと思います。だって、彼女が彼氏の心配をするのは、当たり前の事でしょう?
残念ながら、授業の合間とかは数える事が出来ません。
だって、別々のクラスなんですから。
でもお昼時は別です。
一緒にご飯を食べますからね。
「茂馬君、今日はどこで食べる?」
「うーん……天気がいいから、中庭はどうかな」
「うんっ」
お弁当を持って中庭に行くと、ベンチが一つだけ空いていました。
「あ、かのちゃん、あそこ空いてるよ」
そうしてそこに行こうとした時です。
「ちょっとー。そこあたしらが目ぇ付けてたんだけどぉ?」
「え、でも」
「っていうかー。いっつもそこ、あたしらが使ってんだから他行ってよ」
物凄くメイクの濃い子達に声を掛けられました。
目の周りなんか真っ黒に塗ってあって、まるでパンダみたいです。
「そうだったんだ……ごめん」
「……え」
「かのちゃん、他のトコにしよっか」
「え?うん……」
私が相手のメイクに気を取られている隙に、茂馬君は謝って場所を譲ってしまいました。
ああいうのは早い者勝ちだと思うんですが。
ちらっと上履きの色を見ると、学年は一個下でした。
「……ねぇ茂馬君。何でそうすぐに謝っちゃうの?」
「そう、かな?」
「そうだよ。茂馬君、全然悪く無いのに謝ってる事多すぎ」
「……ごめん」
「……また謝る」
「……ごめん」
「またー」
「うん……ごめん」
堂々巡りです。
本当に茂馬君は謝り過ぎです。
でも。
茂馬君は、本当に自分が悪いと思った時もすぐに素直に謝れる人です。
だから私達はケンカが長引いた事がありません。
だって、私が自分の方が悪いって分かってて、でも素直に謝れない時も茂馬君が謝ってくるんです。
何度も何度も、私が口をきくまで。
そうしている内に、私は謝らせている事に罪悪感を感じて、素直に謝る事ができます。
“かのちゃん、ごめんね?だから機嫌直して?”
“……茂馬君は悪くないの。私の方が悪かったんだから、だからもう謝らないで。ごめんね?”
という感じです。
……こう考えると、これも一つの長所なのでしょうか?
まぁ、謝り過ぎなのは直さないといけないとは思いますが。
さて、今度はどんな事が待っているんでしょうか?
=Fin=