≪前にも同じ失敗しましたね≫
私の彼はヘタレです。
なさけない、と表現した方が正しいでしょうか?
彼は少しだけ抜けてる所があります。
たまに、同じ失敗を繰り返しています。
まったく。
その性格はどうにかできないのでしょうか?
初めての方も、そうでない方もこんにちは。火乃子です。
今回は茂馬君の失敗談です。
小さい頃から見てきたので、私はもう見慣れましたが。
最近は、しょうがないなぁ、と思いつつも、それが愛しかったりします。
……これって変でしょうか?
茂馬君は、小さい頃から鞄の留め具などを留め忘れる事が多々あります。
そのせいで、小学校の時はよくランドセルの中身をぶちまけてました。
皆様の中にも、経験された方はいると思います。
ランドセルの留め具を留め忘れて、そのまま落ちている物を前屈して拾おうとして、中身をぶちまけてしまうアレです。
しゃがんで拾えば、まだそういった事も無いんでしょうが。
子供の時って、何故か前屈して拾おうとするんですよね。
茂馬君は、それを二日に一回のペースでやっていました……。
茂馬君は普段、リュックサックのようなバッグで学校に通っています。
それを机の上や、図書室のカウンターの上に乗せている時は要注意です。
「茂馬君。もうそろそろ終わり?」
「うん。ちょっとまって、今行くから……」
そういって茂馬君はバッグを掴みました。
あ。
その掴み方は危険です……!
だって肩紐の部分じゃなくて、バッグの表面の、しかも底の部分辺りを掴んでいるんですから……!
ですが時既に遅しです。
忠告する前に、バッグの中身が床にぶちまけられてしまいましたから。
「……もー、茂馬君ったら……ちゃんとバッグのチャックは閉めとかないと」
「ごめん……」
「それに、持つ時はちゃんと確認しなきゃダメだって、前にも言ったでしょ?」
「う……ご、ごめん、かのちゃん」
「はい。無くなった物、ない?」
「……うん、大丈夫。ありがとう、かのちゃん」
「うん。じゃあ、帰ろっか」
これはまぁ本当によくある事なので、もうお互いに慣れっこです。
というか、こういう時の茂馬君は、大抵鞄よりも私の方に気を取られていて失敗しているので。
仕方ないなぁ、って。
茂馬君は、たまに予想も付かない所で失敗します。
ある雨の日の事でした。
背中にはいつものようにリュック型のバッグを背負って。
右手には手提げ袋を持っていました。
それには学校の行事で必要な小物が入っていました。
左手には勿論傘です。
何故左手に傘を持っているかというと、傘を左手で差すから。
茂馬君は二人でいると車道側を歩いてくれるんです。
で、通学路の道順的に、車道は左側になるんです。
だから私の左側を歩く茂馬君は、傘が私のと当たらないように、左手で持つんです。
……まさかそれが裏目に出るとは思いもしませんでしたが。
駅の改札での事です。
茂馬君は、傘を持っている手に切符を持っていました。
……もうお分かりですね?
駅の改札で切符を入れる場所は、右側にあるんですから。
すぐ後ろから来る筈の茂馬君が来なくて、振り返ってみました。
「……茂馬君?」
「か、かのちゃん……ちょっとまって……あ、すみません……」
「……」
後ろの人に謝りながら、左手で一生懸命切符を入れようとしていました……。
えっと……確か、前にも同じ失敗しましたね。
その時の記憶では。
学校帰りではなかったんですが、やはり雨の日で荷物を持っていて。
傘は腕に引っ掛けていたんですが、左手で切符を入れようとして、傘を落としていました。
持ち替える、という発想は出てこないのでしょうか?
……あ。
今回は切符を落としました。
ようやく改札から出てきた茂馬君は、落ち込んだようにシュンと項垂れていました。
「ごめんね、かのちゃん。待たせちゃって……」
「茂馬君。今度からはちゃんと、電車降りる前に右手で切符持ってようね?」
「……うん」
というか。
切符を買った時は、手提げ袋も傘も一緒に左手に持っていたんです。
そうして改札を通って。
恐らく電車に乗った時に、切符と傘を左手に持ち替えたんでしょうが。
きっと、傘は左手で差す、というのが習慣付いているのでしょう。
それは恋人である私を気遣った行動で。
彼の優しさなのです。
大切にされていますね、私。
ちょっと……いえ、かなり嬉しいです。
だから茂馬君が失敗してる所を見ても、愛おしいって思えるんです。
さて、今度はどんな事が待っているんでしょうか?
=Fin=