≪怒ると怖かったりします≫


 私の彼はヘタレです。
 なさけない、と表現した方が正しいでしょうか?
 そんな彼でも怒る事があります。
 怒った時の彼は物凄く強気に出ます。

 まったく。
 普段からそうだといいんですが……。


 初めての方も、そうでない方もこんにちは。火乃子です。
 いい加減そろそろ、初めての方はいないとも思いますが。

 今回のお話は茂馬君が怒った時のお話をします。
 ……え?茂馬君が怒っても、大した事ないんじゃないかって?
 甘いですね。
 もしそう思っている方は考えを改めた方がいいですよ。
 だって、よく言うじゃないですか。
 “普段怒らない奴がキレると、何をするか分からない”って。


 茂馬君は滅多に怒りません。
 だって、自分を押さえ付けてしまう性格ですからね。
 だからヘタレなんです。
 そんな茂馬君にだって、譲れないモノはあるんですよ。

 その一つが本です。

 茂馬君は本当に本が大好きですからね。
 だから、本をぞんざいに扱われるのが嫌なんです。
 あ、勿論、人の所有物に関しては何も言いませんよ?
 悲しそうな表情はしますけど。


 茂馬君が図書委員だという事はもうご存知だと思います。
 そうして、学校図書は“皆のモノ”です。
 もうお分かりですね?
 茂馬君は、学校図書を私物化したりぞんざいに扱う人に対して怒るんです。

 ウチの学校には、読書週間なるものがあります。
 その時期になると、大抵一度は茂馬君が怒る姿が見られます。
 読書週間になると、普段は絶対に図書室とは縁がないような人まで訪れますから。

「なぁーなんか面白いもんあった?」
「ねぇよ。大体、マンガがダメなんだもんなー」
「あ、なぁコレ。この本マンガっぽい」

 その人達が手にしていたのはよくある、歴史上の人物が行った事を分かりやすいように、所々マンガで説明してあるものでした。
 ……というか、図書室では静かにして欲しいのですが。

「あーでもコイツ興味ねぇ。他にはどんなのある?信長とかねぇ?」
「あると思うぜ」

 そう言いながらその人達は、棚から出した本を机に放ったまま、他の本を漁り始めました。

「あれ?何か無くない?」
「あるだろ?」

 あろう事かその人達は、棚から適当に本を取り出し、違っていたらそのまま床に放っていました。
 棚の低い位置に本があった事も関係しているんでしょうが。
 ちなみに。
 本日の図書当番は茂馬君です。
 当然、茂馬君は一部始終を見ています。
 ……あ。カウンターの内側に座っていた茂馬君が無言で無表情で立ち上がりました……!
 こうなったらもう、私には見ている事しか出来ません。
 だってもう本当に、普段から想像できないくらいに怒ると怖かったりしますから。

「……すみません」
「あぁ?何」
「本を乱雑に扱わないで下さい」
「はぁ?何だテメェ?」
「……もっと丁寧に扱えって言ってるんだ……!」

 ヤバイです。
 口調が変わりました。本気で怒っています。

「何言ってんの?たかだか本だろ。丁寧とかそんなん、関係あるワケ?」
「オオアリだ。ぞんざいに扱えばそれだけ本が傷みやすくなるんだよ!」
「は、ワケわかんねぇ。本が傷んで、それが何?」
「ココの本はお前らの私物じゃないんだよ。これから先、何年も色んな人が読む為にあるんだ」

 茂馬君、目が据わってます……怖いです……。

「うっせーなぁ……行こうぜ」
「本当、マジウゼェ」

 剣呑な光を宿した茂馬君にビビッたのか、その人達はすごすごと図書室を後にしました。
 後に残った茂馬君は、もう普通の表情で。
 床に散らばっていた本を片付け始めました。

「茂馬君、手伝うね」
「……かのちゃん、ありがとう。……それにしても、全く何で本を乱雑に扱うかな……皆が読む物なのに……」
「……本当だね」

 ちなみに茂馬君は。
 過去に、有名な不良の先輩にも食って掛かった事があります……。
 あの時は本当に、心臓が止まるかと思いました。
 胸倉掴まれたのに、茂馬君は相手を冷たく、睨むような目付きで見据えていましたから。

 とにかく。
 茂馬君は怒らせない方が身の為です。
 うん。

 さて、次はどんな事が待っているんでしょうか?


=Fin=