≪たまには頼りになるんです≫


 私の彼はヘタレです。
 なさけない、と表現した方が正しいでしょうか?
 そんな彼でもやっぱり男の子です。
 頼りになる事もあるんです。

 まったく。
 普段からそうだといいんですが……。


 初めての方も、そうでない方もこんにちは。火乃子です。
 突然ですが、今回の茂馬君はちょっと違います。
 ヘタレじゃないです。多分。
 普段の汚名返上、名誉挽回とばかりにカッコイイですから!
 皆さん、惚れないで下さいね?


 茂馬君には譲れないモノがあります。
 一つは本。
 コレは前回のお話を読んで下さった方はご承知の事と思います。
 でもですね、あるんですよ。
 それ以上に譲れないモノが。

 それは勿論、彼女である私の存在。

 あ。今、惚気だとか思ったでしょう!
 いや、その通りなんですが。
 とにかく、私に関わる事になると茂馬君はいつもと違います。


 お休みの日になると、茂馬君と私はデートをするのが定番です。
 といっても、街を二人で歩いてお買い物が主ですけど。
 だって二人はまだ学生ですからね。デートにかけるお金も、移動手段も限られてきます。
 だから殆ど見てるだけ、が基本のお買い物です。
 たまに映画とか、遊園地にも行きますが。

 デートの時は茂馬君が家まで迎えに来てくれます。
 だから、ナンパなんていうものにお目にかかった事は皆無です。
 皆無だったんですが。

「ねぇねぇ、彼女、ヒマ?ヒマなら俺と遊ばない?」
「……」
「ねぇ、聞いてる?」

 茂馬君がちょっと傍を離れた時です。
 いかにもちゃらんぽらんで軽そうな男が傍でしゃべっていました。
 最初は気にも留めていなかったんですが。
 少しして辺りを見回して、どうやら私に話しかけているのだと気付きました。

「……もしかして、私ですか?」
「君以外に誰がいるのー。ま、いいや。ね、俺と遊ばない?」
「や、私、今デート中なので」
「デート中ぅ?嘘ばっかー。今一人じゃん」
「……彼氏は今ちょっと傍を離れているだけです」

 茂馬君は、ちょっと離れた所にある屋台でクレープを買ってきてくれているんです。
 私が今いる所からでも後姿が見えます。

「いいじゃん、彼氏なんかほっといてさー。俺、君の事退屈させない自信あるけど」
「他を当たって下さい」
「うわ、クール。でもそんな感じもいいかも。ね、マジで俺と行かない?」

 ドコに行くっていうんですか。
 死んでも貴方なんかには付いて行きませんけど。

 その内、その男が私の腕を掴んできました。
 かなり強めの力です。
 ちょっと痛くて顔を顰めてしまいます。
 でも、目の前の男はそんな事知らん振りです。
 全く。女の子の扱いがなっていませんね!

「離して下さい!」
「いいじゃん、行こうぜ」

 ちょっと……。
 コレは本気でヤバイかもしれません。
 拉致されそうです。

「嫌だって言ってるでしょ、もう……助けて……茂馬君!」

 そう茂馬君の名前を呼んだ時。
 不意に掴まれていた腕が自由になりました。

「ごめんね、かのちゃん。遅くなって」

 見ると茂馬君が、相手の男の腕を掴んでいました。手首の関節部分です。
 どうやらそこを思いっ切り茂馬君に掴まれて、手を離したんだと思います。
 だって関節部分掴まれると、うまく手に力が入りませんからね。

「嫌がってるのに無理矢理連れて行こうとするなんて、最低な奴だな」
「はぁ?何だテメェ」
「人の彼女に手を出すな……!」

 ……口調がまたも変わりましたよ。
 しかも声まで低くなっています。
 完全に怒りMAXです……!
 ナンパ男はすぐに逃げて行きました。

「……ごめんね、すぐに来られなくて」
「ううん。ありがとう、助けてくれて」
「かのちゃんが、無事でよかった……腕、大丈夫?」

 見ると少しだけ赤くなっていました。
 かなり強めに掴まれていたみたいです。

「平気だよ?茂馬君が助けてくれたから」
「なら、いいけど……」

 茂馬君は心配そうに顔を歪めています。
 そんな茂馬君ですが、先程はやっぱりカッコ良かったです。
 悔しいけれど、力でこられたら女の子は無力ですからね。
 本当、ああいう時は頼りになって、男の子だなと実感します。

「じゃあクレープ食べよ……あれ?クレープ……」

 茂馬君が買ってきたクレープは、無残にも地面に落ちてグチャっとなっていました……。

「ごめん……買い直してくるね」

 訂正。たまには頼りになるんです。ええ、本当。

「茂馬君。今度は一緒に行こ?そしたら安全でしょ?」
「……うん、そうだね。かのちゃんがまた絡まれたら大変だし」

 頼りになる面もある茂馬君。
 でもやっぱりちょっと、どこか抜けてて。
 そんな茂馬君が大好きだなぁと再確認。

 あ、ちなみに学校では私は告白とかされた事ありませんよ?
 だって私が茂馬君一筋だという事は、もう周知の事実ですからね。

 さて、次はどんな事が待っているんでしょうか?


=Fin=