俺の彼女は7歳年上の社会人。
 で、同じ学校の先生だったりするんだけど。
 それは勿論、周りには秘密。
 だけど、彼女には少々困った所があって……。


≪そのままの君で≫


 寿子は見た目、ちょっと気の強そうな美人系だ。
 だけど、その性格はまるきり反対。
 確かに意地っ張りで気の強い所もあるんだけど……意外に脆くてネガティブ思考の持ち主で。
 しかも悩み事は全部、自分の中に抱え込んじゃって、どんどん思考が悪い方に行くタイプ。
 そんな寿子の性格に、達哉は時々やれやれと思う。

 悩み事があるなら相談すればいいのに。
 意地っ張りな性格がそれを邪魔してる。
 でも。
 最近分かってきたんだけど、表情には出やすいんだよなぁ……。


 達哉はしょっちゅう寿子の家に行く。
 というのも、生徒と教師という関係上、表立って外を一緒に歩けないからだ。
 出掛けれないのなら、せめて一緒の部屋で過ごしたい。

 だけどその日は、寿子の様子が目に見えておかしくて。
 凄く思い悩んだ表情をしている。

 ……あーあ。また何か抱え込んで悩んでるな……。

 そう思った達哉は、取り敢えず聞いてみる。
「寿子、何かあった?」
「え?」
「また複雑な表情してるから。寿子がそういう顔してる時は、大抵なんかあった時だから」
「ぅ……」
 どうやら図星らしく、寿子はバツの悪そうな顔をする。
「な、話してよ。それとも、やっぱり俺は頼りない?」
 不安そうな表情でそう聞くと、寿子は思い切り首を横に振る。
「そんな事ない!」
「じゃ、話して?何をそんなに悩んでるんだ?」
「そ、それは……その……」
 口を濁らせ、言いよどむのは寿子の癖のようなもので。
 ここはちゃんと話し出すまで辛抱強く待つ方がいい。
「……職員室で、ニュースでやってた事が話題になって……その……」
「ニュース?……ああ」
 その単語に達哉はすぐにピンと来る。
「成程ね。あーそういう事か。教師が生徒に手ぇ出して淫行で捕まったとか、そんなの気にしてるんだ」
「だ、だって!ああいうのって大抵、教師の方は同意の上だったとか証言してるじゃない?だから……」
「あのなぁ……俺らは本当に同意の上じゃんか。本気で付き合ってるんだから罪にはなりません。問題ナシって事でOK?」
 だが、ここで寿子のネガティブ思考は終わらない。
「それくらい分かってるけど……でも、周りにバレたらって思うと……」

「じゃあ別れる?」

「……っ!」
 達哉の言葉に、寿子は悲痛な表情をして。
 でもそれは、寿子が別れるなんて望んでない証拠だ。
「……あのさ。そんな表情するくらいなら、バレた時の事なんて考えんなよ。起こるかどうか分からない未来考えて思い悩むな」
「達哉……」
「別に俺はさ、楽観視してる訳じゃないんだぞ?ただの杞憂なんかで別れたくないんだ」
「うん……」

「絶対に離さないって、いつも言ってるだろ?」

 達哉がそう言うと、寿子はようやく安堵したような嬉しそうな表情をする。
「達哉……うん!」
 そういう時々見せる素直な所が、達哉は一番好きだったりもする。
 勿論、意地っ張りな所も不安や悩みを抱え込んじゃうようなトコも全部ひっくるめて寿子だから、どんな部分も好きなのだが。


 ちょっとの事で、すぐ不安になったり思い悩む所は困った所だけど。
 俺の言葉で気持ちが晴れたり、嬉しそうにするのを見るのは好きだから。
 まぁ、このままでもいいかもしんない。


=Fin=