≪不似合いな二人≫
私の彼、椎名彰吉は、身長190前後。髪を、後ろは癖毛をそのままに、あちこち無造作に跳ねさせていて、前髪は顔の半分を隠す程長い。
基本的に無口で、彼女である私、成島かりんの傍を離れようとしない。
その様子が、まるでご主人様にしか懐かない忠犬のように見えるらしく、周りからはワンコみたいな奴だと称されている。
そうして、その表現に拍車を掛けているのは他でもない、私自身の彼に対する態度だろう。
学校では、本当に付き合っているのかと疑われる程、私は彼に対して素っ気ない態度なのだから。
「かりんと椎名君の関係って、謎よねー」
「うん、私もそう思う」
「謎って……一応恋人同士という関係なんだけど」
友人の発言に些か不機嫌な様子でそう言うかりんに、だが友人達は反論する。
「だって、基本的に会話ないしー」
「私達が何言っても、かりんは椎名君と一緒にお昼食べないしー」
「別に四六時中一緒にいるのが恋人ってワケでもないでしょ?」
呆れたようにかりんは言うが、友人達はさらに言う。
「でも、椎名君はそうじゃないんじゃない?」
「そうそう。いっつもかりんの傍にいるし。ね、椎名君」
そう言って友人達が話を振ったのは、彰吉本人。
そう、彼はずっと友人と話をしているかりんの傍に立っていたのだ。
本人の前で堂々と話題に出す彼女達は、ある意味凄いと言えよう。
あまつさえ、意見を求める所は特に。
「いいのよ、別に」
かりんがそう言うと、友人達からブーイングが上がる。
「ちょっと〜!せめて“そうなの?”とか聞いてあげれば?」
「かりん冷たい〜」
だがかりんにその抗議の声は無駄だった。
「はいはい。人の事に口出ししなーい」
「「……」」
恋人に素っ気ない態度しか取らないかりんと、黙って傍に付き従うだけの彰吉。
友人達は、どうしてこの二人がカップルとして成り立っているのか、不思議でならなかった。
だが。
二人の関係には、理由があった。
かりんと彰吉は、学校帰りには必ずどちらかの家に寄る。
そうして。
彰吉はベッドに腰掛けると、自分の太腿をポンポンと叩く。
それが合図かのように、かりんは彰吉の太腿に座ると彼の腰に両腕を回して抱き付き、頭を彼の肩口に押しつける。
「彰吉ぃ……」
「かりん、何?」
「ごめんね?学校で……」
「いいよ。かりんのそういう照れ屋なトコも、大好きだから」
そう。かりんは人前だと照れてしまって、甘える所か逆に、淡泊な態度を取ってしまうのだった。
「学校でもこういう風に甘えられたら、ちゃんと恋人同士に見てもらえるんだろうけどな……」
「かりんはそのままでもいいよ……」
そう言いながら、彰吉はかりんのつむじに口付ける。
「かりんの本当に可愛い姿は俺だけが知ってればいいんだから」
「でも、彰吉は嫌じゃない?」
かりんは彰吉から少し体を離すと、泣きそうな顔で彼を見上げる。
「お弁当、一緒に食べたいんじゃない?それにもっと会話とかあった方がいいよね……」
「それは、できる事ならその方がいいけど……でもやっぱりかりんの甘えた姿や照れた表情とかは他の男に見せたくないし。
そんな事言うなら、俺も前髪切って髪型きちんと整えた方がいい?」
彰吉がそう尋ねると、かりんは勢いよく言う。
「ダメ!彰吉はその方が可愛いし、彰吉の綺麗な瞳は私だけが見ればいいの!」
彰吉の目を見ようと思ったら、前髪を掻き揚げさせるか、体が触れる程すぐ傍まで寄って下から覗き込むしかない。
髪に触れるのも、ましてや体が触れる程すぐ傍まで寄るのも、彼女である自分の特権だ。
だがすぐにかりんはしゅんとする。
「……ごめんね?私ばっかり我侭言って……」
だが彰吉は蕩けそうな笑顔を向けて言う。
「どんなかりんも可愛いよ。勿論、こうして二人きりの時に甘えてくるかりんが一番だけど」
優しく髪を撫でてくる彰吉に、かりんは体を震わせたかと思うと、思い切り抱き付く。
「〜〜っ彰吉、大好きっ!」
「俺も大好きだよ、かりん」
そうして二人は見つめ合ってキスをする。
極度の照れ屋で、人前では彼氏に冷たい態度を取ってしまうかりんと。
そんな彼女を、これでもかというくらい甘やかして溺愛している彰吉。
不似合いに見えて実はお似合いの二人の、そんないつもの日常。
=Fin=