≪寒い日は≫
夕方になると、大分冷えるようになってきたこの季節。
この日は特に昼間との気温差が激しくて、隣で歩く桃花も少し寒そうに見えた。
「そろそろコート出した方がいいかなぁ……」
「寒い?」
「んー、一応中にカーディガン着てるんだけどね」
月羽矢学園の制服は男女共にブレザーだ。
それに学校指定のベストとカーディガンを、個人で好きなように組み合わせて着る。
「……」
凍護はおもむろに、自分の着ていたブレザーを脱いで、桃花に羽織らせる。
「え、凍護君?」
「寒いんだろ?着てていいよ」
「でも、それじゃあ凍護君が風邪引いちゃうよ」
「俺はさっきまで部活で体動かしてたから大丈夫。それよりも、桃花は今まで体育館の外で待ってたんだから体が冷えてるはずだろ?」
バスケ部の見学は、基本的に試合以外では体育館内立ち入り禁止だ。
だから当然、桃花はバスケ部の練習が終わるまで外で待つ事になる。
「でも……」
「じゃあ、手ぇ繋がせて?」
そう言うと凍護は、桃花の手を繋いで自分のズボンのポケットに入れる。
「桃花の手、やっぱり少し冷えてる」
ポケットの中で指を絡ませて。
桃花は肩に掛けられた凍護のブレザーを、落ちないように空いた方の手でギュッと掴んで、凍護に寄り添う。
「……あったかい」
「ん」
寒い日はくっついて、一緒に暖まろう。
=Fin=