≪ストラップ≫


 ある時、凍護はふと思った事を桃花に聞いた。
「桃花って携帯のストラップ、何だか凄い沢山付けてるよな」
「そうかなぁ……普通だよ?」
 普通、と桃花は言うが、実際には携帯本体よりも重たいんじゃないか、というぐらい付けられていた。
「そういう凍護君は、何にも付けてないよね」
 桃花の指摘通り、凍護は携帯にストラップの類は何も付けていない。
「自分で付けるのはあんまり好きじゃないけど……何か付けた方がいい?」
「んー……でも、何だか凍護君が携帯ストラップをジャラジャラ付けてるのってイメージできない」
 クスクスと笑いながらそう言われ、凍護も頷く。
「俺も」
 その日はそこで話は終わったのだが。


 それから数日後の休日。
 デートしていた二人は、道端の露天商に声を掛けられた。
「ねーねー、そこのお二人さん。ちょっと見てかない?」
 ニコニコと、人のよさそうなお姉さんにそう誘われて、二人はちょっとだけ見る事にした。

「わ、可愛い」
「んふふー、ありがと。これ、全部私の手作りだから、そう言って貰えると嬉しいわー」

 革紐やビーズを組み合わせて作られたアクセサリー。
 手作りだというそれは、お値段も手頃で。

「こういうの作れるって、凄いですね」
「そう?結構簡単よー?あ、こっちは女の子向けで、こっちが男の子向けに作ってあるんだけど」
 その説明通り、僅かに配色や大きさが違う。
「あーでもカップルさんだとこっちの方がいいかな」
 そう言って指し示した所には、色違いで同じデザインの携帯ストラップがいくつか置いてあった。
「お揃いのアクセサリーは彼氏さんの方が嫌がる場合もあるから、携帯ストラップしか作ってないんだけどね」
 苦笑しながらそう説明するお姉さんに、桃花は笑顔で言う。
「でも、ちゃんとカップル用にそう考えて作ってるなんて、凄いですよー。ね、凍護君」
「そうだな。んー……桃花、どれか気に入ったのある?」
 当たり前のようにそう聞く凍護に、桃花は少し驚いて聞く。
「え、凍護君いいの?」
 自分で付けるのはあまり好きじゃないと、数日前に聞いたばかりだから。

「桃花とお揃いの携帯ストラップだったら、付けてもいいかな」

 そう言う凍護に、桃花は嬉しくなる。
「えっと……じゃあ、コレ下さい」
「はーい。袋に入れますか?」
「あ、じゃあそのままで」
「はい。ありがとうございましたー」

 笑顔のお姉さんに見送られ、少し歩いた所でそれぞれストラップを手にする。
 と、何を思ったか桃花は今まで携帯にジャラジャラと付けていたストラップ類を全部外して鞄の中に仕舞い込んだ。
 そうして先程買ったストラップだけを付けて、嬉しそうな笑みを浮かべる。
「……全部外しちゃって、いいのか?」
「ん。だって、折角凍護君とお揃いなのに、他の付けてたら埋もれちゃうでしょ?」
 当たり前のようにそう言う桃花に、凍護も笑顔になる。
 そうして、お互いに携帯に付けたストラップ同士を近付ける。

「お揃い、だな」
「お揃い、だね」

 そうして微笑み合うと、そのままチュッとキスをして、また寄り添って歩き出した。


=Fin=