≪君だけが特別≫
凍護は基本、いつも何かを睨みつけているような目付きだ。
別にそれは不機嫌でも何でもなくて。
ただ単に、一重で切れ長の吊り目なだけだ。
人によっては、クールだとかカッコイイとか言われる目の形。
だけど凍護の場合、不良だという噂がマイナス面に出ている。
それに凍護は滅多な事では笑わない。
恐らくは、人付き合いが苦手だという凍護の性格も関係しているのだろう。
表情が乏しい上に目付きが悪いのであれば、他人に恐怖感を与えるのには十分だろう。
そんな凍護の表情が、見る間に一変する事がある。
クラスで親しい友人達と話していた凍護は、相変わらずの表情だ。
とはいえ、それでも普段よりかは幾分変化があるといえよう。
そんな時。
「凍護君、いる?」
そう言って教室のドアの所から顔を覗かせたのは桃花だ。
その途端、凍護の表情が著しく変化した。
「桃花」
ゆったりと微笑むように、嬉しげに目を細めて凍護は桃花の傍に寄る。
まるで別人のような表情の凍護に、クラス中はおろか、凍護の友人達までもがギョッとする。
「あのね、国語の教科書忘れちゃったの。貸してくれる?」
「待ってて。今、取ってくるから」
そう言って凍護は一旦机まで戻ると、教科書を持って桃花の傍に戻る。
「はい、コレ」
「ありがとう、凍護君。じゃあ後で返しに来るね」
「うん」
そうして桃花を見送った凍護は、再び自分の席へと戻るのだが。
その表情はもう既にいつもの状態に戻っていた。
「凍護……お前、マジで彼女にベタ惚れなんだな……」
しみじみとそう言って頷く友人に、凍護は眉を寄せる。
「付き合い始めの頃は、そうでもなかった気がするんだけどなぁ……」
「どういう意味だ?」
訳が分からず凍護がそう聞くと、友人達は深く息を吐いて言う。
「彼女が特別だっていうのが、すげぇ顔に出てた」
「顔に……?」
だが、自分の表情の変化に気付いていないのか、凍護は首を傾げるだけだった。
次第に“桃花仕様”の凍護の表情は、全校生徒の知る所となって。
今ではもう見慣れた日常として、凍護の表情のギャップについては誰も驚かなくなった。
それもラブラブバカップルの異名の原因の一つにもなっているのだが。
本人達が幸せなら、それでいい。
=Fin=