≪宣言≫


 璃琉羽は最近困っていた。
 それは、知らない人からの呼び出し告白。
 今はもう、緋久という彼氏がいるのに。
 というか。
 前より酷くなってる気がする。

「あの、姫中さん。俺と付き合ってくれませんか?」

 これはまだ分かる。
 問題はその後だ。

「ごめんなさい。私、付き合ってる人がいるんです」
「知ってるよ。宗方でしょ?でも、君みたいな子があんな不良と付き合ってるなんて、間違ってると思うんだ」
 と、このように璃琉羽が断ると、相手は絶対に緋久を悪く言う。

 アンタなんかが緋久君の何を知ってるっていうのよ!?
 何にも知らないくせに、緋久君を悪く言わないで!

 そう思うが、それを言った所で相手はどうせ信じないから、言わない事にする。
「君は騙されてるだけなんだよ。だからさ、俺と付き合わない?」
「……もしそうだとしても、あなたと付き合おうとは思いません。ごめんなさい」
 そう言って、そそくさと逃げる事に決めている。


 だけどたまに、性質の悪いのもいて。
「宗方なんかより、俺と付き合わない?俺の方が絶対アイツより強いぜ?」
 と、明らかに自分の力を誇示しようとする。
 こういう人達は、どうも璃琉羽が不良の彼氏が欲しいのだと勘違いしているみたいだ。
「私は別に緋久君が強いから付き合ってる訳じゃありません」
 そう言ってやっぱり逃げる事にしている。


「もう、酷いと思わない?緋久君の事悪く言うんだよ?」
「まぁ、あの噂が立ち消えない限りは仕方ないと思うけど……」
「どうしたら告白されなくなるかな……私はやっぱり、呼び出しを無視するか、緋久君が相手の前に顔出せばいいと思うんだけど」
「それは相手に失礼じゃないの?」
「相手の方が失礼な事ばっかり言ってるの!やっぱり、こっそり付いてくるんじゃなくて、堂々と付いてきてよ」
「……考えとく」

 実は。
 璃琉羽は告白の呼び出しをされると、いつも緋久に言って付いて来てもらってる。
 だが緋久は、相手に失礼だから、といつもこっそりと見ていて。
 もし相手が璃琉羽に何かしようとしたら、助けに出て行くのだ。

「緋久君は、私が告白されてるトコ見て嬉しいの?」
「嬉しくないけど、嬉しい」
「……どういう意味?」
「璃琉羽が告白されてるのを見るのは嫌だけど、璃琉羽がちゃんと断ってくれるから嬉しい」
「だってそれは……緋久君以外と付き合う気なんてないもん」
「うん、ありがとう」

 本当は緋久だって、璃琉羽が告白されるのは嫌だし、見たくない。
 でも、呼び出しを受けると絶対に自分に報告してくれるし、相手の申し出を断っているのを見ると、自分が好きだって言われてるみたいで。

「璃琉羽は、俺がもし誰かに告白されたらどうする?」
「え、それは嫌!」
「……大丈夫。もしそんな事あっても、俺は璃琉羽が好きだって、相手に宣言するから」

 そうやって周りに宣言し続けていれば、いつかきっと、誰もが諦めるから。


=Fin=