≪不安≫
時々。
本当に時々、俺はこのまま璃琉羽の隣にいていいんだろうか?と思う事がある。
璃琉羽は可愛くて、結構男共の間では人気がある。
それは彼女がよく告白されている事からも分かる事だ。
そんな璃琉羽の隣に、誤解とはいえ、不良といわれる俺なんかがいても、本当にいいんだろうか?と。
だってそうだろう?
俺と一緒にいるだけで、璃琉羽が悪く言われる事だってあるんだ。
人なんてものは、噂だけを鵜呑みにして本質を見ようともせず、他者を見下す輩の方が圧倒的に多いと俺は思う。
そうじゃなきゃ、絡まれてる女の子を助けたって話に尾ひれが付いた挙句、肝心の部分が抜けて、悪い噂に変化するわけないだろ。
まぁそれもどうせ、“補導された”という事実のみを見て、“悪い事をしたんだろう”という概念の元に話を変形させていっただけなんだろうけど。
本当は補導=未成年犯罪者じゃないんだけどな。
「璃琉羽」
俺が声を掛けると、璃琉羽はとても嬉しそうな笑顔をする。
それだけで俺は幸せなんだけれど。
ふと、無理させてないか、と不安になる。
だけど璃琉羽は、意外に強い。
例えば、俺の陰口を叩いている輩がいれば、自分の事のように怒ってくれるし。
俺と付き合ってる事に対して何か言われれば、はっきりと笑顔で“緋久君は不良じゃないよ”と公言してくれる。
それを聞く度に、俺がどれだけ嬉しくて、幸せな気持ちになるか、きっと璃琉羽には想像できないと思うけど。
初めて逢った時、璃琉羽は不安定だった俺の心を救い上げてくれたから。
その笑顔一つで。
だから、他の誰が俺を嫌っても。
璃琉羽が隣にいてくれるだけで、俺には十分なんだ。
でもそれは俺のエゴ。
もしかしたら、知らない内に璃琉羽を縛り付けているのかもしれない。
でも、璃琉羽はいつもそんな俺の不安を吹き飛ばす。
「緋久君。何か考え事?」
「ん……特には。どうして?」
「だって緋久君、ちょっと浮かない顔してたから」
「そう、かな」
「だって、好きな人の表情だよ?分かるよ。緋久君が笑顔なら私も嬉しいし、幸せになるけど、今みたいに浮かない顔してたら、ちょっと心配だもん」
そう言う璃琉羽の笑顔に。
俺の不安は解けていって。
「大丈夫だよ、璃琉羽。ありがとう」
「……?」
お礼なんか言われても、よく分からないって顔してるけど。
それでいい。
俺の不安なんか口に出したら、それこそ怒られそうだ。
「手、繋ごうか?」
「うんっ」
時々、ふいに不安になる俺だけど。
璃琉羽が変わらず隣にいてくれる限り、大丈夫。
=Fin=