≪バスケ≫
それは、いつものように緋久と璃琉羽が一緒に帰っている時だった。
「璃琉羽、今度のデートどこか行きたい所ある?」
「デート?うーん……あ、そうだ!行きたい所っていうか、してみたい事があるんだけど」
「何?」
「緋久君とバスケしてみたい」
「……バスケ?俺と?」
「うん。最近はバスケのゴールが設置されてる公園も多いでしょ?」
「あぁ、そういえば……」
昔は、限られた場所にしかバスケゴールがなかったから、放課後はよく学校の校庭で遊んでいたりもしたが。
「ね、ダメ?」
「ダメじゃないよ。それじゃあ、今度のデートは公園でバスケね」
「うんっ」
嬉しそうに返事をする璃琉羽に、緋久も微笑んだ。
そうしてデートの日、直接公園で待ち合わせをして。
緋久がバスケットボール持参で璃琉羽を待っていると、いつもとは違う雰囲気の璃琉羽が来た。
「お待たせ、緋久君」
璃琉羽はいつも大抵、スカートに女の子らしいふわっとした感じの服装なのだが、今日は動きやすいように、キュロットに軽装で。
「璃琉羽、そういうのも似合うね。いつもと雰囲気が違う」
「そうかな?」
首を傾げてそう言うが、璃琉羽は内心、そうかも、と思う。
だってやっぱり、好きな人には可愛いって思われたいから。
デートの時はいつも服装選びには時間が掛かっちゃうもん。
「じゃあ、どうしようか?璃琉羽はバスケの経験はある?」
「うん、体育の時間にちょっとだけ」
「そっか。じゃ、まずはお手本」
緋久はそう言って、おもむろにドリブルを始める。
そうしてそのまま軽い助走をつけて、レイアップシュートを決める。
「どう?」
「緋久君、カッコイイ」
「ありがとう。……なんか、改めて璃琉羽にそう言われると、ちょっと照れるかも」
そう言って首の後ろを掻く緋久に、璃琉羽はクスクスと笑う。
「ね、やり方私にも教えて?」
「うん。じゃあまずは……」
そうして二人は、暫くの間そうして楽しんで。
「ちょっと休憩ー」
そう言って璃琉羽はベンチに座る。
すると緋久もその隣に腰掛けた。
「璃琉羽、疲れた?」
「ちょっとだけね。だって体育の時ぐらいしか運動しないもん」
「?でも璃琉羽、弓道部って運動部だろ?」
「そうなんだけど……弓道って、そんなに動く競技じゃないし。幅広い年代の人ができる競技だもん」
「そんなにハードじゃないって事?」
「うん。だって弓だって筋力で力任せに引く訳じゃないし」
「へぇ。そうなんだ」
「でも、楽しい。バスケやってる緋久君、生き生きしてるし」
「俺も楽しい。部活で真剣にやるのもいいけど、こうやって楽しむのもいい息抜きになるし」
そうして璃琉羽に微笑みながら言う。
「璃琉羽とこうして一緒にバスケができるなんて、思ってもみなかった」
それは、本当に嬉しそうな声で。
「じゃあ、これからも時々はこういうデートしよっか」
「賛成」
二人はそう約束した。
二人で楽しむのがデートだから。
こういうデートもたまには、いい。
=Fin=