ご主人サマは、ボクを狭い部屋から連れ出してくれたヒト
ご主人サマは、ワタシを拾ってくれたヒト

だから恩返ししなくちゃ!∞


≪レトとニーニャの大作戦≫


 ゴールデンレトリーバーのレト(♂)と猫のニーニャ(♀)は、小さい頃から一緒に弓近の家で育ってきた。
 レトはペットショップで売られていて。
 ニーニャは公園に捨てられていた。
 二匹とも、同じような時期――とはいえ、数ヶ月の差はあるが――に弦矢家に来て、その仲は大変いい。
 そうして二匹とも、飼い主である弓近の事が、大好きだった。


 それはまだ二匹が、弦矢家に来て間もない頃。
ねぇ、ニーニャ。ご主人サマは、何をしたら喜んでくれるかな
うーん……やっぱり、コトネチャン、じゃない?
何で?
だってご主人サマ、いつもコトネチャンの話ばかりじゃない
そうだよね。ボクもコトネチャン大好き。いい匂いだし、優しく撫でてくれるし
ワタシも好きよ。コトネチャンに撫でられるの、気持ちいいわよねぇ
……コトネチャン、なんでちょっとしかお家にいないのかな。ご主人サマ達はちゃんとお家にいるのに
ね。ずっとお家にいればいいのに。コトネチャンと一緒のお布団で寝てみたいな
ボク達がお願いしたら、いてくれないかな?
頼んでみる?
うん!
 そうして、二匹は琴音に頼んでみる事にした。


「レト、ニーニャ。遊びに来たよ」
コトネチャンだ!
お願いしなくちゃ!
 そうして二匹は、琴音に飛び付く。
コトネチャン、お願い。ずっとお家にいてよ
ご主人サマ達と、ワタシ達と、一緒にお家で寝ようよ
 そう言いながら、レトとニーニャは琴音の顔を舐める。
「あははっ!くすぐったいよ〜!」
「レトもニーニャも、すっかり琴音が気に入ったみたいだな」
「うん、凄く嬉しい」
 その言葉を聞いて、レトもニーニャも喜ぶ。
コトネチャン、嬉しいって
じゃあ、ずっとお家にいてくれるのかな

 だけど。
 暫く遊んでいた琴音は、時計を見て残念そうに言う。
「あ、そろそろ帰らなくちゃ」
「もうそんな時間か」
 その事に、レトもニーニャも慌てて琴音を引き止めようとする。
コトネチャン、ずっといてくれるんじゃないの?
行っちゃヤダ!
「ごめんね、レト、ニーニャ。もうお家に帰らなくちゃ」
「そうだぞ。琴音ちゃんが困ってるだろ」
ご主人サマ……
コトネチャン、いなくていいの?
「じゃあね、弓近君。レトもニーニャもまたね」
「うん。バイバイ」
 弓近が見送るのに習って、二匹は諦めた。

ご主人サマ、コトネチャンいなくてもいいのかな
でも、相変わらずコトネチャンのお話ばっかりよ?
ボク達のお願いが足りなかったのかなぁ
今度はもっと頼んでみようか


 そうして月日は経って、現在。
ニーニャ!コトネチャンの匂いだ!
本当!?今日こそはお願い聞いてもらうわよ
 琴音が玄関先まで来ると、レトもニーニャも玄関で扉が開くのを待つのが習慣になっていた。
「レト!ニーニャ!」
 それを琴音も分かっているのか、ドアを開けると二匹の名前を呼んでその場にしゃがみ、両手を広げる。
「ははっ、元気だったか〜?」
コトネチャン、今日こそこのままお家にいてよ〜
お願い。ご主人サマの為に、ずっと一緒にいてよ〜
「くすぐったいって!コラ、やーめー」


 それはきっと、琴音が弓近と結婚するまで続く、二匹の作戦。


=Fin=