≪スケッチブック≫
遊菜が貴寿と付き合い始めて暫く経ったある日。
遊菜は初めて一人暮らしの貴寿の部屋へと遊びに来た。
「その辺で適当に寛いでていいから」
……適当に寛いでて、と言われてもかなりキンチョーするんですが。
落ち着きなく辺りを見回すと、遊菜はベッドの下にあるモノを見つけた。
といっても別にHな本なんかじゃなく。
それは美大生の必須アイテム、スケッチブックだった。
一体、どんな絵を描いているんだろう?
気になった遊菜はページをめくって見る。
「あれ?これって……」
それは昨年の部活のデッサン画。
今のじゃないのかと多少残念に思いつつ、やっぱり先輩の絵は上手だな、とページをめくる。
と。
「っ!?」
そこには思いも寄らなかったモノが描いてあり、遊菜は呆然とする。
「嘘……」
「こら遊菜。勝手に人の物を見ない」
「っ!」
急に声を掛けられビクッとして見上げると、そこには照れたように顔を赤くしてムスッとしている貴寿が立っていた。
「先輩……私、嬉しいです。だって、この絵……」
それは紛れもない、笑っている遊菜の姿。
「ずっと見ててくれたんだなって、改めて思って……」
本当にこの頃から自分の事を好きでいてくれたのだと実感する。
「じゃあさ……今度はちゃんとモデルになってくれる?」
「……はいっ!」
貴寿の問い掛けに、遊菜は嬉しそうに返事をした。
今度からは横顔を盗み見るんじゃなく、ちゃんと向き合って描いて貰おう。
それは。
写真よりも、素敵な笑顔。
=Fin=