最初のきっかけは、一体何だったか。
とにかく、馴れ合いが多い美術部員にしては珍しく真面目に絵を描いてる子だと思った。
勿論、他にも真面目に絵を描いている子はいた。
それでも気になったのは、彼女――甲斐遊菜だけだった。
≪転機≫
彼女とは在学中に言葉を交わした事は殆どない。
何故なら、自分が彼女に苦手意識を持たれていると自覚していたから。
卒業して一人暮らしをする事になって、大学生活が始まって少し。
月羽矢学園の制服を着た子を見ると、もう既に懐かしいと思っている自分がいた。
そんな中で、どうしても頭を過ぎるのは彼女の事ばかりで。
「……こんなに引きずるならいっその事、告白して玉砕しておけばよかったかな……」
彼女の家は知っている。
前に部活中、友達に家の場所を説明しているのが聞えてきて、実際に行ってみた事があるから。
部活に顔を出す、という事も考えたが、特に仲の良かった後輩もいなかったので、何を今更という感じだろうし。
そんなある日。
「あー……お茶がないな……」
いつもなら買い置きしておくペットボトルのお茶。
それが切れているのに気付いて、買いに行く事にした。
時間的にコンビニしか空いてなくて。
駅の傍にあるコンビニに買いに行く事にした。
「いらっしゃいませー」
生活費は親から貰っているが、節約して余った分を画材道具に回す事にしている。
その為コンビニには滅多に来る事はなくて。
久しぶりだし、ちょっと店内を物色する事にした。
「へー……コンビニ限定の品って結構あるんだな」
そんな時、聞き覚えのある名前と声がした。
「あれ、甲斐さんどうしたの?今日はシフトじゃないよね?」
「あ、はい。ちょっとルーズリーフ切らしちゃって……それとついでに明日のシフトの確認しとこうかなって」
レジの方を見ると、店員と親しそうに話している彼女の姿があって。
久しぶりに見る彼女は、やっぱり可愛かった。
「ちょっと待ってね……明日は五時からになってるよ」
「ありがとうございます」
話の内容からすると、彼女はどうやらこのコンビニでバイトしているらしい。
そう考えていると、彼女は目的の物を買って店を後にしていた。
「バイト、か……」
少しだけ悩んで、でも、すぐに決心した。
「あの、ここってバイト募集してますか?」
少しでも傍にいたい。
気持ちを伝えるまではいかなくても、せめて普通に話しできるぐらいの関係になりたい。
これは、今までの自分を変えるチャンスでもあるかもしれない。
どう転ぶかは――自分次第。
=Fin=