≪雨の日の過ごし方≫
油絵は雨の日と相性が悪い。
何故なら、油絵の具そのものが乾くのが遅いのだ。湿気の多い日などは特に、カビにも気をつけなければならなくなる程に。
そうでなくとも、通常の保管時にさえ湿気と温度には気を使う代物だ。
だから特に梅雨の時期は、なかなか筆が進まなくて困る。
雨が降ると遊菜は貴寿の所に顔を出す。
雨の日は大抵、貴寿は油絵を描かないから。
「先輩。今日は出掛けましょう」
貴寿の部屋に来た遊菜は、そう言って彼を外へと誘う。
「え?でも、外は雨だぞ。普通女の子って、雨に濡れるの嫌がるんじゃないか?」
外を見ると、土砂降りではないがそれなりに雨量はある。
「でも、雨の日じゃないと先輩、殆ど絵に没頭しちゃうから……だからたまには出掛けましょう」
遊菜の言葉に、貴寿は少し沈んだ表情を浮かべる。
「……ごめんな?普段、あんまり構ってやれなくて……」
申し訳なさそうにそう言う貴寿に、遊菜は首を横に振る。
「私、絵を描いてる時の先輩も好きですよ?」
その言葉に、貴寿はまじまじと遊菜を見つめる。
「それに、先輩が描いてるトコ見てるだけでも、勉強になりますし」
「遊菜……ありがとう」
そう言って貴寿は、遊菜を抱き締める。
「……雨の日だからって、遊べない事はないんです。最近は室内遊戯も結構ありますし……何より、雨の日には雨の日の風情もあるんですから」
そう言ってニッコリと笑う遊菜に、貴寿も笑顔を浮かべる。
「雨の日特有のモチーフも見つかるかもね」
何でも絵を描く事に結び付けてしまう辺りが貴寿らしい。
その事にクスクスと笑って、遊菜は言う。
「じゃあ、お出掛けしましょう。雨の日のお散歩デートです」
「了解、遊菜」
そうして二人は、雨の日を楽しむかのように、外へと出掛けた。
雨の日だからといって、家に閉じこもっていなければいけない訳じゃない。
そこには新たな発見があるかも、と思えば出掛けるのも案外、楽しいかもしれない。
=Fin=