≪ノートの纏め方≫
月羽矢学園ではアルバイトをするのは原則自由だが、それに関する規則が大きく二つある。
一つは、違法なアルバイトをしない事。(細かい事を言えば、例え十八歳に達していても、水商売系はダメとか色々あるが)
もう一つは、成績不振者のアルバイトは禁止する、という事。
何といっても、学生の本分は勉強。
しかも義務教育とは違い高校はまさに、自ら学問を乞う場だ。
それなのに勉強の方が疎かになるのはよくない、という考えだ。
そうして、遊菜はあまり学校の成績が良くない。
テストの結果はいつも赤点スレスレで、これではいつバイト禁止になってもおかしくはない。
赤点を一つでも取れば、成績不振者とみなされるからだ。
なのでテストになると、貴寿は遊菜の勉強を見る事にしている。
遊菜のノートを見て授業の進み具合を確認し、テスト範囲と照らし合わせた貴寿は、丁寧に教えていく。
「あ、そっかー。これってそういう意味だったんだ……」
貴寿の説明を受けながら、遊菜は別のノートに新しく纏めていく。
それを見ながら、貴寿は思っていた事を口にした。
「……遊菜って、ノートを綺麗に纏めようと頑張って自滅するタイプ?」
その言葉に、遊菜は今しがたしてもらった説明をノートに書き込む手を止める。
「ノートは確かに綺麗だしカラフルなんだけど……逆に要点を纏め切れてない」
パラパラとノートを捲りながらの指摘に、遊菜は段々と俯き、最後に小さく頷いた。
「……どうしても、毎回纏めきれないんですよ。どうしたらいいですか?」
ふにゃっと情けない表情でそう聞いてくる遊菜に、貴寿は少し考えてから言う。
「……そうだな。取り敢えず、ノートを纏める時は赤と青、二色だけでいいと思う」
「二色だけ、ですか?」
「そう。無理に綺麗にしようと沢山の色を使い分けるより、効率がいい。どの先生も、大抵チョークは三色しか使ってないだろ?」
貴寿の言う通り、殆どの教師が白、赤、青の三色しか使っていない。
「取り敢えず、黒板の文字をそのまま書き写せばいいんだよ。先生だってちゃんと重要な所は色を変えて書いてるんだから」
言われてみれば、確かにそんな気がする。
「赤で書いてある所を重点的に覚えて。その補足として青で書いてある事を覚えれば、大抵大丈夫だ」
そう言いながら、貴寿は遊菜の髪を梳くように撫でる。
それがくすぐったい気がして、遊菜は少し身じろぎしながら聞く。
「先輩は、そうやって勉強してたんですか?」
「そうだな。そんな感じ」
そう言いながら目を細めて微笑む貴寿に、遊菜は笑みを返す。
「じゃあ、今度からそうしてみます。それで分からない所があったら、また教えて下さいね?」
「勿論」
そう約束して、二人は再びテスト勉強を再開した。
綺麗にノートを纏めるのもいいけど。
案外、A simple is the best かもしれない。
=Fin=