≪帰省≫


 今年の夏は実家に帰省しなかった為、智は年末は帰らざるをえなかった。
 ……のだが。
「智、みかん食べるか?」
「お茶入れるよ」
 帰ってきてからというもの、兄の仁と弟の忠が何かと構ってきて、智はちょっとウンザリしていた。

 構ってくる理由が、“久し振りに会ったから”というものなら、まぁしょうがないかなとは思う。
 ただでさえシスコンなんだし。

 だけど理由はそれよりもむしろ……。

「あ、メール」
 すると兄弟二人の目の色が途端に変わるのだ。
「誰からだっ!」
「……友達から」
「まさかアイツじゃないだろうなっ!」
「……」
 そう、二人は特定の相手からの連絡に対して目を光らせているのだ。

 それは勿論、礼義からの連絡。

「もー!二人ともしつこい。別に相手が誰でもいいでしょ?」
「いーや、ダメだ。こっちにいる間はアイツとの連絡は許さん!」
「……何で礼君と連絡取るのに許可がいるのよ」
 すると二人は、とんでもない事を言い出す。
「いいか?智はアイツに騙されてるんだ!」
「あーいう奴は裏で何考えてるか分かんないんだぞ?」
「礼君はそんな人じゃないもん!」
 そうして智は自分の部屋へと閉じ篭る。

「礼君……今電話したらダメかな……」
 礼義は今頃、バイトに励んでいる事だろう。
 実家に帰るのにわざわざ駅まで見送りに来てくれた礼義は、「智ちゃんがいない寂しさを紛らわす為に、年末年始はバイト三昧かな」と言っていたから。
「私も何か、簡単なバイトとかできればなぁ……」

 何だかつまんない。


 それでも中学時代の友達と会ったりして、年始には近所の神社に初詣にも行って。
 3日には早々に寮に戻る事にした。
「まだ冬休みはあるんだろ?もうちょっと居ればいいじゃないか」
「だって、向こうで出来た友達とも久し振りに会いたいし、10日もこっちに居たんだからいいじゃない」
 まぁ一番の目的は、早く礼義に逢いたいからなのだが。
「新学期とかの準備とかもあるし」
「新学期の準備なんて、一日あれば終わるだろ?」
「他に宿題残ってないか確認もしたいのっ!残ってたら終わらせる時間が必要だもの」
「でもなぁ……」
「大体!お兄ちゃんは大学受験、忠は高校受験が控えてるんでしょ?私なんかに構ってないで自分の事をちゃんとしなくていいの!?」
 智がそう言うと、すかさず母親が加勢に入ってくれる。
「そうよ?二人ともちゃんと勉強に専念しないと。という事で、智が居ると二人の受験にも影響するみたいだし……智には悪いけど、早々に寮に戻って貰うしかないわね」
「お母さん……じゃあ、また今度帰省するね」
 そうして智は母親に駅まで送って貰う事にした。


 寮に戻ったら、一番に礼君に連絡しよう。
 そうして逢えるようならすぐに逢って、顔を見たい。
 ……早く逢えるといいな。


=Fin=