≪未来のお嫁さん≫
ある休日のお昼。
初音は11歳になる息子の龍矢を連れて近くのカフェに来ていた。
「珍しいね。お父さんが家にいない事もだけど……外でお昼食べるなんて」
「うふふ。今日はねぇ、龍矢の未来のお嫁さんに逢うのよ?」
ニコニコと何かを企むような笑顔の初音に、龍矢は微妙な表情をする。
「お母さん。僕まだ小学生だよ……?」
龍矢はこの歳にしては素直で落ち着いていて、虎太郎にだんだん似てきたなと初音は思う。
「大丈夫。こうなったらいいな〜っていう私の希望だから」
「……」
そうして暫くして現れたのは、赤ん坊を連れた女性だった。
「姉様、遅れてごめんなさい。内緒で出てくるってやっぱり大変で」
「ごめんね?でもどうしても幸花ちゃんを直接見てみたかったのよ〜」
そう言って初音は赤ん坊を預かる。
「可愛いわね、やっぱり。ほら、龍矢の未来のお嫁さんよ?」
「……お母さん。僕とこの子で何歳離れてると思ってるの……?」
相手が赤ん坊、という事よりも歳の差に疑問を持つ辺り、龍矢はやっぱり他の子と違うのだろう。
「多分、この子の方が嫌だって言うと思うけど」
「あら、じゃあ龍矢はこの子が相手でもOKなのね?」
「……そうじゃなくて」
その様子を見ていた清美はクスクスと笑う。
「なぁに、姉様?龍矢君と幸花が結婚すればいいって思ってるの?」
「ええ、そうよ?だって、貴女と和幸さんの子供なら、きっと美人で素直ないい子に育つって確証があるもの」
「でも、そうなると龍矢君は婿養子になってくれるのかしら?」
「……出来れば幸花ちゃんにお嫁に来て欲しいんだけど」
「もう一人、子供が出来たらそれもいいけど……」
そうして色々と話し出してしまった初音に溜息を吐いて、龍矢は幸花の顔を覗き込む。
すると、最初はきょとんとしていたその表情がパッと笑顔になって、龍矢に向かって手を伸ばしてきた。
龍矢がそっと指を近づけると、幸花はその指を思いの外強く握って、きゃらきゃらと笑う。
「……幸花ちゃん」
そもそも赤ん坊を間近で見るのが初めてだった龍矢は、自然と笑顔になる。
「可愛い……」
そんな様子の龍矢に気付いた初音と清美は、暫くその様子を見守っていた。
「龍矢、幸花ちゃんの事、気に入った?」
「……結婚対象に入れるかどうかは別として、可愛いかった」
「あの子は美人になるわよ〜?」
「……だから、まだ気が早すぎるって……」
呆れたように溜息を吐く龍矢に、初音はこっそりと一人笑った。
未来なんて、どうなるかわからないのよ?
可能性はゼロじゃないし、なんとなくだけど、彼女が未来のお嫁さんになる気がするのよね。
そう思って。
=Fin=
結果は「reliance」を見ての通り(笑)