私の彼、天津芹君はクラスいいんちょさんです。
だからクラスの為に色々と動きます。
そうすると自然に皆に頼られて。
それはいい事だと思うんですが……。
≪モヤモヤな気持ち≫
「ねぇ天津君。これなんだけどぉ」
「……ああ、うん。今度からはもう少し早く提出してね」
「ごめんね?」
クラスでよく見かける光景。
芹は嫌な顔一つせずに、誰に対しても笑顔で接する。
だけど。
最近そんな芹の姿を見る度に、杏香は心がモヤモヤするのを感じていた。
「何でですか……?」
杏香には、それが何なのかよく分からなかった。
分からなくて杏香は、芹に相談する。
「モヤモヤ?僕を見てて?」
「はい……何だか、気分まで落ち込んでくるんですー……」
シュンとする杏香に、だが芹も彼女の言う気持ちが何なのか分からない。
「うーん……もしかしてあれかな。僕が皆に対して色々と強く言わないのがダメなのかな」
「分かんないです……」
「……とにかく、頑張ってみるよ」
「……はい」
だが、杏香は何となくまだ納得がいかなかった。
「おーい、委員長。これなんだけどさぁ」
「……もう、ダメじゃないか。こういうのはもう少し早く提出しないと」
「あ、あぁ。悪ぃ」
芹はちょっとずつ、皆に対して注意すべき事は注意するようにした。
「杏香、どう?少しはモヤモヤ晴れた?」
「はい。最近はそんなに……」
授業の合間の時間に二人でそう話していると、クラスの女子が話しかけてきた。
「委員長ー。このプリントの提出日っていつー?」
「何?……ああ、これは来週の頭だよ」
「そっかー。分かった、ありがとうねー」
そんな短いやりとりを終えて芹が再び杏香に向き直ると。
「……杏香?なんか難しい顔してるけど、何で?」
「……何だか、モヤモヤするんです」
「え、どうして?」
「何だか、今の見てたら……」
「今の……?」
今のやりとりの中に、何かおかしな点があっただろうか?
別に特にこれといっては……。
そこまで考えて、芹は不意に思い当たる。
「杏香。それって、ヤキモチなんじゃない?」
芹は試しにそう言って。
言われた杏香は、目をパチクリさせる。
「ヤキモチ、ですかー?」
「うん。もしかして杏香は、僕が別の女の子と話をしてるのを見るのが嫌なんじゃないかなって」
言われてみて、初めて杏香は納得がいった。
「そっか、ヤキモチですかー!成程ー、これがヤキモチなんですねー?」
ニコニコと。
胸のつかえが取れたようにスッキリした表情の杏香に、芹は顔を赤くする。
「芹君?顔、赤いですよー?」
首を傾げて顔を覗き込んで来る杏香に、芹は顔を逸らす。
「……何でもない」
まさか。
そうだったらいいなー、ぐらいに思って言った事なのに。
こうも簡単に、あっさりと肯定されるとは思っていなくて。
それが物凄く嬉しい。
モヤモヤな気持ちは、愛情の深さと紙一重。
=Fin=