≪想像の時間♪≫
いつも屋上でお弁当を食べている芹と杏香なのだが。
「うぅー……何だか、急に寒くなりましたねー……」
「うん。外で食べるのは、もう季節的に無理かな」
冬も間近になって急に気温が下がりだした為、いくら昼間で日が出てる間は温かいとはいえ、風はもう徐々に冷たくなってきている。
ちなみに雨の日はどうしていたかというと、屋上の出入り口の踊り場の所で食べていたのだが。
流石にいくら校舎内とはいっても、階段や廊下部分もこれから冷えてくるだろう。
「別のトコ、探さなきゃですねぇ……」
「取り敢えず、今日はここで我慢だね」
「はいー」
そうして次の日。
「芹君、芹君。お昼食べるのにいい場所見つけましたー」
「そうなの?」
そうして杏香に連れられて芹が来たのは。
「……被服室?」
「はいー。普段授業でも殆ど使われない教室ですけど、家庭科部の活動は調理室かここなんですよー」
「へぇ……でも、いいの?」
「ちゃんと顧問の先生に許可取りましたから、大丈夫ですー」
どうやら家庭科部員、という事で大目に見てもらったらしい。
「毎回鍵を借りに行かなくちゃダメですけどー……でも職員室も近いですし、いいかなーって」
「うん、僕はここでいいよ」
「よかったですー」
そうして二人でお弁当を食べ始めて。
芹はふと思う。
「そういえば、家庭科部って普段、調理実習で何作ってるの?」
今いる被服室を使う時は、以前芹が貰ったTシャツを作ったり、冬のセーターやマフラーなどの編み物をするのだろう。
調理実習は文字通り料理だが……少ない部費でそんなに色々できるのだろうかと疑問に思ってしまったのだ。
「えっとですねぇ……主に節約レシピですー」
「節約レシピ?」
「はいー。時々テレビの節約番組とかでやってるじゃないですかー。一食数十円で出来るっていうヤツですー」
「あぁ……」
杏香の説明に、芹は時々自分の母親がお昼の情報番組を録画して、そこで紹介されたレシピをメモ帳に書き写している姿を思い浮かべた。
「節約レシピなら実用的ですし、一ヶ月の大半をそうして調理実習にできるなら、料理の腕も上がりますしねー。一石二鳥ですー」
確かにそれなら納得できる。
学校から各部に振り分けられてる部費もあるハズだし、部員から徴収する部費を合わせれば十分だろう。
「でも節約レシピって、実は一人暮らしにはあんまり向かないんですよー?」
「え、そうなの?」
「はいー。食材を少量しか使いませんからねぇ。余った分を次の日に使い切れるようにレシピを考えなくちゃですー」
「そっか。節約レシピって言っても、あくまで使った分量で単価計算するから安く感じるんだ」
「調味料なら問題ないんですけどねぇ。だからレシピは溜まっても、家で好きな時に作れないのが難点ですー」
残念そうにそう言う杏香は、実状的に自炊を殆どしていない。
自炊の方がかえって出費になるのだから仕方ないだろう。
本当は料理が好きなだけに、現状に複雑そうだ。
そんな杏香に、芹は何とか励まそうとする。
「確かに今はちょっと大変かもしれないけど……でも、いつか絶対そのレシピが役に立つ時が来るって。例えば、結婚した時とか」
そう言って芹は、杏香が自分の為に夕飯を作ってくれている姿を想像して、思わず顔を真っ赤にさせる。
「結婚ですかー……まだまだ先な気もしますけど……あ、でも前に芹君にお弁当作ってあげた時は、ちゃんとレシピ役に立ちましたー!」
ニコニコと嬉しそうにそう言う杏香に、芹は余計に顔を赤くさせる。
「芹君、大丈夫ですかー?顔、赤いですけど……」
「だ、大丈夫!」
慌ててそう言って、芹は思わず杏香から顔を背けて目を閉じる。
ああ、でも。
本当に杏香が僕の奥さんとかになってくれたらいいなぁ……。
そんな事を夢想して密かに頬を緩ませる芹に、杏香は不思議そうに首を傾げた。
そうして杏香も、でも、と思う。
(……将来、ご飯を作ってあげる相手……芹君だったら、嬉しいですー)
そんな事を考えて、そっと笑みを溢した。
今は想像だけだけど。
二人の想いが同じなら、近い将来、現実になっても不思議じゃない。
=Fin=