突然だが俺の名前は野上恭一。現在高一、15歳。
スポーツはそこそこ出来る方で、勉強は……中の下くらい?と普通すぎる高校生なんだけど。
唯一つ。
他人とは少し違う所がある。
人間誰しも取柄があるもんだが、これは取柄と言っていいものかどうか……。
実は俺はシックスセンス、つまり第六感と言われているものが他人よりよく働く。
働き過ぎて見えちゃいけない者まで見えちまうが(泣)
見える時には前触れがあって、背筋が凍るは、悪寒が走るは、気持ち悪いのなんのって、常人が感じるそれとは比べモンにならないくらい。
……で、何で俺がこんな事言ってるかってーと。
ただ今、見えちゃいけねーモンが見えてます(泣)
≪LOVE☆ゴースト≫
こういう時は平常心で見えないフリして通り過ぎるのがいつものやり方。
だけど、今回ばかりは失敗した。
結構可愛い女の子で、思わず見たら、目が合った。
ヤバイ。
『私の事が、見えるんですか……?』
俺はあえて無視をする。こういうのとは関わりあいにならないのが一番だ。
『待って、見えてるんでしょう!?』
無視。無視。
『どうして無視するんですかぁ……』
泣いたって無駄だからな!
『こうなったら……貴方の一族を子孫末代まで呪うしか……』
「ちょっと待てっ!」
『え?』
「あ……」
しまったぁぁぁ――っ!
『よかった。やっぱり私の事が見えるんですね』
にっこりと笑顔を浮かべる彼女。
きっとこの後無理難題を吹っ掛けられたり、取り付かれて体を乗っ取られたりするんだ――っ!(泣)
『あの……お願いがあるんですけど』
そらきた。
「何でしょう?(汗)」
『私に……』
取り殺されろか?
『今日一日……』
体貸せか?
『付き合って頂けませんかっ!?』
あの世まで?
……まぁ一応。
「……どこに?」
聞いといてやるか。
『え……いいんですか!?よかったぁ……!最初無視されたから、断られるかと思いました』
そう言ってふわりと笑った彼女に、不覚にも俺はときめいてしまった。
『きゃ―――――っ!!』
で、ここがどこかというと。
『ジェットコースター。おもしろかったですねっ』
遊園地。
『でも恭一さんがいてくれてよかったぁ。ジェットコースター、先頭に乗れたし』
俺が隣に誰か座るの嫌だって係員に言ったからな。
『観覧車、ドア開けて貰って乗れるし』
そりゃ、俺の姿は係員に見えるからな。
てか、一人で観覧車に乗る変な男って思われたぞ、絶対。
『恭一さんがいるから、お化け屋敷も怖くないし』
「……そういえばさぁ。さっきから恭一さん、恭一さんって、お前なんで俺の名前知ってるんだ?」
コイツには名乗った覚えねーし。超能力?それとも生前に逢った事あるとか?
『私、男の人とこうやってデートってしたの、初めてなんです』
おいおい。無視かよっ!?
『だから、恭一さんと来れて嬉しいんです』
「え……?」
『恭一さんは知らないかもしれないけど、朝の通学の時、いつも同じバスだったんですよ?』
そうだったのか?全然気付かなかった。
『一目惚れって言うのかな、初めて見た時からずっと好きで。……一週間前、勇気を出して告白しようと思った矢先に……あそこで事故に遭ったんです』
「……」
『私……本当はもっと生きていたかった……もっと、色々な事したかった。もっと……もっと早く、生きている内に恭一さんとここに来たかった……!』
掛ける言葉が見つからなかった。
俺は、黙って聞く事しか出来ないのだろうか?
そんな俺の頭を、ある一つのやり取りが過ぎる。
「……一週間前って言ったよな?」
『はい……』
“恭一。あんた、最近この辺りで事故があったの知ってる?”
“そういやそんな話聞いたな”
“事故に遭った子ね。今でも意識不明の重体なんだって。アンタと同い年よ?可哀相よねぇ”
“ふーん……”
「……おい、急げばまだ間に合うかもしれねぇぞ」
『え?』
俺は一つの可能性を信じ、病院へと走った。
病院に着くと、真っ先に受付で聞く。
「一週間くらい前に、多分ここの病院だと思うんだけど、事故で運び込まれた女の子の病室は!?」
「は?」
「ええと……そうだ、お前の名前は!?」
『え……あ、久我千春です』
「そう、久我千春!そいつの病室は!?」
「……そ、その方なら、まだICU室に……」
「ICU……集中治療室か。何階の!?」
「六階ですが……」
「よし、行くぞ!」
『はいっ!』
後ろから“病院内では走らないで下さい!”という声が聞こえたが、そんな状況ではなかった。
「ここだ……」
ICUと書かれたドアの前。
この向こうに、千春の体がある。
「面会謝絶……。家族じゃないから俺は入れないな。よし、一人で行け」
『え……でもっ』
「ここにお前の体があるって事は、多分ヤバイ状態なんだろう。なんたって、幽体離脱してるんだからな」
意識不明の重体。体に魂が無いと、体の機能はどんどん低下するんだと思う。
『……私、まだ死んでなかったんですね』
「だから早く体に戻れ。生きて、色々したいんだろ?」
『……はいっ!あの……恭一さん』
「何?」
『……いえ、何でもありません』
そう言って彼女は扉の向こうに消えた。
その直後、室内が慌しくなるのが分かった。恐らく彼女が意識を取り戻したせいだろう。
俺は、その場から立ち去った。
あれから数週間。俺はどんな顔で彼女に逢えばいいか分からず、病院には行かなかった。
もし、幽霊だった時の事を覚えていなかったら、とも考えて。
「もう退院したのかな……」
最後のあの時、彼女は何て言おうとしたんだろうか?
そんな事を考えながら歩いていると、道に女子高生が一人ポツンと立っていた。
心なしか、前にもこんな場面を見た事がある気がする。
デジャヴだろうか?
そのまま見ていると、彼女がこちらを見て。
あ、目が合っ……!?
「お…まっ……!千春……!?」
「恭一さん……っ!」
今度はちゃんと実体がある彼女が、傍に駆け寄ってきた。
「恭一さん……あの、えーっと、今度はちゃんと体もあるし、その、改めて……」
頬を赤らめながらそう切り出す彼女に、何を言おうとしているのかわかった俺は、彼女の言葉を遮って言う。
「待った、俺に言わせて。……その、なんだ、今度は一日だけ付き合うってのはナシな」
「え……」
「まぁ、今度からは恋人っつー事で」
「恭一さん……本当に?」
「……ああ」
うわっ!すっげー恥ずかしいんですけど!?
「きょ…いち、さん……ありがとう、ございます……ふぇ〜ん!」
「おい〜。泣く奴があるか?ったく……お前は笑ってろよ……」
「え……最後の方、何て言ったんですか……?よく聞き取れ……」
「何でもねぇよっ」
「えーっ!教えて下さいよぉ」
最後の言葉は絶対言わない。笑ってろ、なんて、何でかって聞かれたら言わなきゃなんねーもん。
本当は初めて出会った時に、笑った顔見て一目惚れしたって。
=Fin=