≪小さくて可愛いモノ≫


 戌井健は身長193p。
 そんな彼が現在恋しているのは、身長149pの小鳥遊ことり。
 告白をして、いつも一緒にお弁当を食べたり、一緒に帰ったりしているが。

 実はまだ告白の返事を貰っていない。


「ことり、お弁当食べよう」
「あ、はい、せんぱい」
 その呼び方に、健は内心ガックリとする。
(今日も“せんぱい”……)

 いつになったら名前で呼んでくれるんだろうか……。

「先輩。落ち込んでないで自分で行動起こしたらどうですか」
「!?」
 ボソッとそう言ったのはことりといつも一緒にいる早苗だ。
「どうせことりの事だから、まだ告白の返事してないんでしょう」
 健が早苗と顔を合わせるのはお弁当の時だけなのだが。
「……よく分かったね」
「先輩は見てて分り易いですから。まぁ、ことりは結構鈍感だから気付いてないかもしれませんが」
「ははっ……」
 鋭く指摘されて、健は力なく笑うしかなかった。
「あれ?早苗ちゃん、せんぱいと何話してるの?」
「ううん、何にも?ことりの事が大好きなんですね、って話してただけ」
 早苗がサラリとそう言うと、ことりも健も真っ赤になる。
 そんな二人に早苗はニッコリと笑顔で言う。
「さ、早く食べましょう」
「そ、そうだねっ」
「……そうしようか」
 ことりは明るく言い、逆に健は力なく言った。


 部活が終わると、二人は一緒に帰る。
「あ、ことり。ちょっとコンビニに寄ってもいい?」
「はい、いいですけど……?」
 寄り道は健にしては珍しいが、部活でお腹でも減ったのかな?と思って、ことりは付いて行く。
 だが、健が向かったのはお菓子が置いてあるコーナーで。
 そこで何かを探していた。
「せんぱい、何探してるんですか?」
「んー……食玩って知ってる?」
「……お菓子のおまけですか?」
「そうとも言うけど……最近のは結構凝った物が多くて」
 そう言って健は、手にしていたものを見せる。
「これ、食器ですか?」
「うん。食器とか、家具とか……最近はなつかしの給食シリーズとか色々あって。集めると結構楽しい」
「わぁ……ミニチュアですね。ちっちゃくて可愛いかも……」
 そこまで言って、ことりは気付く。
「……せんぱいって、基本的に小さくて可愛いもの好きですか?」
「うん、好き。……自分にないものだからね。少し憧れる」
 そうして話をしながらコンビニを出る。
「小さい頃から背が高くて、同い年なのに、みんなのお兄ちゃん的な事されられて。……背が高いってだけで、イコールしっかりしてるっていう印象を周りの大人は持ってたみたい」
「そうなんですか……私は逆ですね。周りからいっつも、無理しなくていいんだよ?って言われてました。だから背の高い先輩が羨ましいです」
「お互いないものねだりだね」
 その言葉に二人は苦笑して。
 だが、健はまたしても内心ガックリしていた。

 小さくて可愛いもの好きって所で、告白の事思い出してくれればよかったのに……。
 ちゃんと気持ちを伝えた時に、“小さくて可愛いことりに一目惚れした”と言ったから、それを思い出させる為に敢えてコンビニにまで寄ったのに。
 これはもう、早苗ちゃんの言った通り、自分で行動を起こすしかないのかもしれない。

 そう思って健は真剣な表情で改まって言う。
「ことり」
「何ですか?」
 可愛く無邪気に見上げてくることりに、健の決心が鈍りそうになる。

 ああもう。本当にことりは可愛い。

 無邪気に見上げてくるこの笑顔を失いたくなくて、返事を聞きだそうとしなかったようなものだ。
 だが、そうも言ってられない。

「あの……そろそろ、告白の返事を聞かせて貰っても、いいかな……?」

 するとことりは目に見えて真っ赤になって。
 健は慌てる。
「あ、まだ答えたくないならいいんだ。そんな、急がなくても」
 するとことりは真っ赤な顔のまま俯いて、健の制服をキュッと掴んだ。

「あ、あの……返事……待たせてごめんなさい……私、せんぱいと……もっと一緒にいたい、です……」

 恥ずかしそうに言われたその言葉に、健は一瞬呆然とする。
「それ、は。……OKって、事……?」
 半信半疑でそう聞くと、ことりは小さく頷く。
 それを見て、健はことりをギュッと抱き締めた。
「やった……よかった、ことり……大好きだ」
「わ、私も、です。せんぱい……」
 最後の言葉に、未だにせんぱい呼ばわりか、とも思ったが、今はOKを貰えただけで良しとする。


「ああ、先輩。ようやく付き合う事になったんですね。おめでとうございます」
「ありがとう、早苗ちゃん」
 早苗にそう言われて、健は嬉しそうに返すが。
「ああ、でも。どこからどう見てもバカップルそのものだったのに、意外と恋人同士になるの遅かったですね」
「……は?」
「まぁ、ことりにしては早い方かもしれませんが」
「え、ちょ」
「ことりはあの通り、いざとなると自分から言い出せない子なので。これからもフォローよろしくお願いしますね」
「はぁ……」
 ストレートに思ってもみなかった事を言われて、健はもう何も言えなかった。

 じゃあ……自分から言い出さないと、一生呼び名は“せんぱい”のままなのか……?

 そう思って健は、先が思いやられる気がした。


 どうやら“小さくて可愛いモノ”は、繊細に扱わないといけないらしい。


=Fin=