冴さんは自覚してないかもしれないけど。
彼女は結構――いや絶対に――男から人気があると思う。
≪独占したいモノ≫
ウチの会社は大きな契約が取れると、それに関連する部署総出で飲み会がある。
酒は好きだからそれは別にいいんだけど。
一つ、どうしても気になる事がある。
それは勿論、俺の愛しの冴さんの事。
周りに付き合っている事を公表していないから仕方ないとは思うんだけど、いつも飲み会になると、俺の周りには女性社員の人が集まっちゃって。
……毎回食事とか誘われても丁寧にお断りしてるんだから、いい加減諦めて欲しいとは思うんだけど。
とにかく、そんな状況で飲み会の席では冴さんと離れ離れになってしまう。
これってある意味拷問なんですけど。
「カンパーイ!」
周りに群がる女性陣の声に、毅は辟易とする。
いい加減、離れてくれないかなぁ……。
これじゃあ冴さんが孤立しちゃうんだけど……。
そう思って冴の方を見た毅は、途端に不機嫌になる。
先程まで一人で飲んでいたハズの冴の傍に、何人か男がいる。
「またかよ……」
小さくチッと舌打ちして、毅は眉を寄せる。
飲み会になるといつもこうだ。
最初は一人で飲んでいる冴の傍に、酒の回った連中が近付いて行く。
しかも、普段から若い女性社員達に相手にされないようなオッサン連中中心に。
幸い、冴はお酒に強い方だし、芯が通っているからセクハラまがいの事をされそうになっても、ハッキリと拒絶できるが。
それでも見ていて気分のいいものじゃない。
それに何より、冴の傍に自分以外の男がいるだけで嫌だと毅は思う。
俺の冴さんから離れろ、この中年オヤジ共っ!
冴さんの傍にいていいのは俺だけなんだよ!
そう思いながら見ていると、冴が席を立った。
毅はそれを見て、ここぞとばかりに自分も席を立つ。
「ちょっとゴメン」
そう言って、群がる女性社員を掻き分け、冴の後を追った。
「冴さん」
「っわ!?……何だ、毅君か……驚かさないでよ、もう……」
急に自分に抱き付いてきた人物に驚いて、それが毅だと分かると冴はホッと胸を撫で下ろす。
「冴さんー……俺、あの席嫌なんだけど。後で冴さんの隣行っていい?」
甘えるようにそう言う毅に、だが冴はそれを却下する。
「だーめ。そんな事したらばれちゃうわ」
「う〜……冴さんのケチ。こんなにも近くにいるのに……」
そう言って毅はサッと周りに人がいないのを確認すると、冴にキスをする。
「ふ……っ」
舌を絡め取る深いキスを堪能すると、毅は冴の唇を親指でなぞる。
「……どうせ二次会とかもあるだろうケド……その時は二人で抜けましょうね、冴さん」
毅がそう囁くと、冴は顔を真っ赤にさせて俯いてしまう。
「返事は?冴さん」
「っ……はい……」
その事に満足して、毅はあと少しだけ我慢しようと思った。
怪しまれないように先に席に戻る冴を見送って、毅はクスリと笑う。
「言いましたよね?俺、冴さんの事かなり独占するって」
冴の背中に向かって、そう呟いて。
冴さん。
貴女はもう、俺のモノ、ですよ。
=Fin=