≪俺のモノ≫
それはある休日の事だった。
「冴さん。冴さんは社員旅行、行きますか?」
雨で出掛ける予定がパァになって、二人して毅の部屋でのんびりしていると、毅がそう聞いてきた。
冴の勤める会社では、年に一回社員旅行がある。
いくつかの部署ごとで纏まって一泊の温泉旅行に行くのだ。
「どうして?」
「一緒に行きたいからに決まってるじゃないですかー」
ニコニコとそう言う毅に、冴はふと思った事を口にする。
「毅君は、行きたいの?」
「そりゃあ勿論。だって、美味い地酒を手に入れるチャンスじゃないですかっ!」
お酒目当てに社員旅行に参加する、という発想は、なんとも毅らしくて。
冴は思わず笑ってしまう。
「ふふっ。毅君、本当にお酒大好きよね」
「ええ。俺の中で二番目に好きなモノですから。勿論一番は冴さんですよ?」
「……っもう……からかわないで頂戴」
毅の言葉に真っ赤になる冴に、彼は満足そうな笑みを浮かべる。
「からかってなんかないですよ……?」
そうして唇にチュッと触れるだけのキスを落とす。
「冴さんは俺のモノですからね……他の何にも換え難い……」
毅はそう言いながら、口付けを次第に深い物へと変化させる。
「ぁ……ん、ふ……っは」
そうして十分に味わった所で、唇を離す。
「冴さん……可愛い……」
冴の頬に手を当て、そのまま親指で唇をなぞる。
キスの余韻か、冴の頬は上気し薄っすらと赤く染まっていて。
しっとりと濡れた目は扇情的だ。
その事に毅はゆったりと微笑む。
だがその眼差しは、獲物を狙う野生動物のようだ。
「毅君……」
「俺のモノっていう印、沢山付けてあげますから……冴さんが俺のモノだって、ちゃんと感じさせて下さいね……」
耳元で囁くようにそう言われて、毅の甘い愛撫に酔わされてしまえば、冴はもうクラクラとするような甘い熱に浮かされるしかない。
目が覚めると、冴は毅の腕の中で。
「あ、起きましたか?」
「ん」
凄く満たされた甘い気分。
自然と頬が緩んで、幸せを感じる。
「冴さん。一緒に社員旅行行きましょうね」
「ええ。でも、夜は宴会よ?いつもの飲み会みたいになるんじゃない?」
クスクス笑いながら冴がそう言うと、毅は少しだけ不機嫌になる。
「冴さんは俺のモノですからねっ」
「じゃあ社員旅行やめる?」
「いいですよ?そうしたら有給使って一緒に部屋付き露天風呂のある宿に数日間行きましょう。勿論、その間は離してあげませんから」
ニンマリと笑ってそう言う毅に、冴は愛想笑いを浮かべる。
「……それはちょっと」
「遠慮しないで下さいね?」
「社員旅行にしときましょう?私も絡まれないようにするから」
「約束ですよ?」
「ええ……毅君も、なるべく女の子にべたべたされないようにしてね……?」
「勿論。冴さんが俺のモノと同じように、俺も冴さんのモノですから」
そう言いながら毅は、再び欲を引き出すような深いキスを施した。
他の何にも換え難い。
お互いがお互いのモノだから。
=Fin=