≪家事≫


 龍矢と幸花が一緒に暮らす中で、家事は主に幸花の仕事だ。
 何故なら龍矢が幸花に「月羽矢学園においで」と誘った時、授業料を自分で払おうとした彼女に、代わりに家事をやって欲しいと頼んだからだ。

 とはいっても、幸花はまだ高校生。遊びたい盛りだ。
 だから龍矢は無理強いはしていない。
 それでも幸花はきちんと家事をこなす。
 それどころか、学校に行く時はお弁当も作ってくれる。
 朝が苦手な龍矢としては、早起きして作ってくれる幸花に有難いと思うと同時に、申し訳なくなる。
 ……時々起こしてもらうし。

「幸花、洗い物はやっておくから準備してきたら?」
「ん、でも準備はもう終わってるよ?」
 首を傾げてそう言う幸花は、もう制服姿だ。
「……早起きだな」
「そうかなぁ?だって、お弁当は夜に下拵えしておくし、授業の用意も前日に済ませておけば、そんなに早く起きなくても大丈夫だよ?」
 普通にそう言うから、多分本当の事なんだろう。
 そうしてふと思った事を口にする。

「幸花はいい奥さんになるな」

「っ!」
 途端に頬を染める幸花に、龍矢は少し考えてから、成程なと思う。

「それとも、もう奥さんみたいなモノかな」

「っ……龍矢さんっ!」
 これ以上にないというくらいに首まで真っ赤になる幸花。
 きっと、全身真っ赤なのだろう。
 そんな幸花に、龍矢はクスクス笑いながら軽くキスをする。
「幸花、可愛い」
「もう……」
 幸花は呆れたような表情だが、実際にはまだ赤い顔をしていて。

 この日の龍矢は、学校でも一日中上機嫌だったのは言うまでもない。


=Fin=