≪記念日≫


 その日、目が覚めた幸花はカレンダーの日付を見て、自然と顔が綻んだ。
「えへへ……今日は龍矢さんの誕生日」
 幸花にとって、この日は特別な日だ。
 何故なら、二人が付き合い始めた日でもあるのだから。
「さ、朝食の支度、支度」
 幸花は起きて手早く自分の支度を整えると、朝食を作りながらお弁当の用意もする。

「今日は龍矢さんの好きなモノ〜っと」
「幸花、おはよう」
 支度の途中で、起きてきた龍矢に声を掛けられ、幸花は満面の笑みで振り返る。
「おはよう、龍矢さん。それと、お誕生日おめでとう!」
「え……あ、そうか。誕生日を誰かに祝ってもらうって久し振りだな……」
「そうなんだ……でも、今年からは私がお祝いするから。今日は龍矢さんの好きなモノばっかり作るからね」
「へぇ、嬉しいな。じゃあ……」
 龍矢はそう言うとおもむろに幸花に近付いて、その頬にキスをする。
「幸花も、俺の好きなモノだからね」
「りゅ、龍矢さん……っ」
 真っ赤になって慌てる幸花に、龍矢は微笑んだ。


 学校にいる間中、幸花は上機嫌だった。
「幸花ちゃん、どうかしたの?何だか嬉しそう」
「うん。今日は朝からずっと幸せそうな笑顔だよね」
 そう声を掛けてきたのは仲良しの桃花と咲だ。
「あのね?今日は龍矢さんの誕生日なんだ」
「そうなの?じゃあお祝いしなきゃだね」
「今日はご馳走作るの。龍矢さんの好きなモノばっかりで」
「喜んでもらえるといいね」
「うんっ」
 そうして三人は楽しい話に花を咲かせた。


 一方の龍矢も、朝から上機嫌だ。
「……何か、お前が上機嫌だとキモい」
 いかにも嫌そうにそう言ってきたのは直樹だ。
 だが龍矢はそれを一蹴する。
「気のせいだろ」
「いや、気のせいじゃねぇ。朝っぱらからニヤニヤして……何かあるのか?」
「俺の誕生日」
「……あーそうかよ。それはオメデトウ」
「ありがとう」
 直樹の全く心の篭ってないその言葉も、今の龍矢は気にもならないぐらいの上機嫌ぶりだった。



 学校が終わると、幸花は急いでご馳走作りに取り掛かる。
「学校がなかったらケーキ作りにも挑戦するんだけどなぁ……」
 そんな事を呟きながら、幸花は準備を進める。

 テーブルに作った料理をきちんとセッティングして。
 誕生日プレゼントも渡しやすいように、でも見つからないように隠しながら用意して。

 そうして準備を終えた頃、龍矢が帰ってきた。
「龍矢さん、お帰り……わぁ!どうしたの?このお花」
 玄関まで出迎えると、龍矢はその手に小さなブーケを持っていた。
「帰りに買ってきたんだ。今日は二人が付き合い始めた記念日でもあるだろ?」
 その言葉に幸花は、思い切り龍矢に抱き付く。

「龍矢さん、大好きっ!」
「俺も。大好きだよ、幸花」

「ね、ご馳走作ったの。冷めないうちに食べて?」
「本当、美味しそうな匂いがする。楽しみだな」
 そうして二人は、記念日のお祝いを始めた。


 大切な記念日だから。
 思い出に残る日にしよう?


=Fin=