≪体調管理≫
その日の龍矢は、朝から何だかボーっとしているようだった。
「龍矢さん、どうかした……?」
「んー?いや、別に何でもないよ」
「そう?何だか、さっきからずっとボーっとしてる」
心配そうにそう言う幸花に、龍矢は笑いながら答える。
「そうかな?……まだ、頭が寝てるのかも」
「もー。龍矢さんて、本当に朝は弱いよね」
龍矢の答えに、幸花も笑いながらそう言う。
「あ、そろそろ俺、行かなきゃ」
「はい、お弁当」
「うん、ありがとう。じゃあ先に出るな」
「いってらっしゃい」
基本的に、龍矢は幸花より先に家を出る。
幸花が車に乗れるのならその必要はないだろうが、それは無理な話だ。
その為、一緒に学校に行く事ができないのだ。
学校に着いてからも、龍矢は何だか頭がボーっとするのを感じていた。
「何だ、龍矢。さっきからボーっとして」
「んー……何か、物を考える気にならないんだよな」
「珍しい事もあるもんだな」
「ま、今日は早く帰って休むかな……」
そう言っていた次の日の朝。
「……まいったな……」
起きようとした龍矢は、体のだるさと悪寒を感じた。
「風邪かな……」
だが、動けない程じゃない。
曜日は……金曜日か。
これなら今日一日何とか過ごせば、その後は十分に休めるな。
そう思った龍矢は一つ息を吐くと、気合を入れて起き上がった。
「おはよう、幸花」
着替えを済ませて居間に行くと、朝食の用意をしている幸花に声を掛けた。
「龍矢さん、おはよう……」
そう言って振り返った幸花は、龍矢の顔を見ると眉を顰めた。
「……龍矢さん」
「ん、何だ?」
幸花は龍矢に近付くと額に手を当てて言う。
「やっぱり……龍矢さん。今日は学校休んで」
幸花の手がひんやりして気持ちいいと思ったが、それは多分自分に熱があるという証拠なのだろう。
だが龍矢はやんわりと幸花の手をどかした。
「……大丈夫だよ。今日行って土日休めば……」
「ダメっ!学校で倒れたらどうするの!?」
「幸花……」
いきなり怒鳴るようにそう言われて、龍矢は目を丸くする。
「お願い、休んで?無理しないで……」
泣き出しそうな表情でそう言われて、龍矢はやれやれと息を吐く。
「……分かった。でも、幸花は学校に行かなきゃダメだぞ?」
「それは……うん」
龍矢が言わなければきっと幸花は、看病する、と学校を休みかねなかっただろう。
「じゃあ、学校に連絡しなきゃな」
そうして龍矢が学校に連絡するのを聞いて、幸花はホッとしていた。
「じゃあ、行ってきます。ちゃんと寝てね?」
「行ってらっしゃい……何だかいつもと逆だな」
「ふふっ、そうだね」
そうして龍矢はいつもとは逆に幸花を見送ると、体を休める為にベッドへと向かった。
ふと目を覚まして時計を見ると、もう午後だった。
思いのほか体は休息を望んでいたらしい。
幸花を見送ってベッドに入った途端、睡魔が襲ってきて今までずっと寝ていたのだ。
「あー……少し腹減ったな……」
ずっと寝てたお蔭か、朝よりも大分体調はいい。
そう思って起き上がると、何かが落ちた。
「……タオル……?」
すると丁度部屋のドアが開いた。
「あ……龍矢さん、起きた?」
「幸花……そうか、もう学校終わったのか」
「うん。何か食べる?おかゆ作るけど」
「そうだな、頼む」
「じゃあちょっと待っててね。あ、出来るまでもう少し横になってて」
「分かった」
そうして再び横になった龍矢は、ふと思う。
こうして誰かに看病されるって、何年ぶりだろうか?
両親が亡くなってからはずっと一人だった。
一度体調を崩した事があって、その時に凄く大変だったから、それからは体調管理にも気を付けてて。
だから今回体調を崩したのも本当に久し振りで。
だけど。
「誰かがいるって、いいもんだな……」
そんな事をしみじみ思って、おかゆが出来るまでの短い間、龍矢は再び眠った。
=Fin=