≪ドライブデート≫


 咲と直樹は生徒と教師。
 周りに内緒にしなくてはいけない二人は、迂闊に外を出歩けない。
 だから、デートらしいデートはした事がなくて。

「咲。今度デートしようか。車でちょっと足伸ばせば、バレる可能性は低いしさ」

 直樹のその言葉に、咲は嬉しそうに顔を綻ばせた。


 デート当日は快晴で。
 車内には微かな音量で最新のJ-POPがかかっている。
「直樹さん、どこに行くんですか?」
「内緒。ま、楽しみにしてろ」

 そうして高速に乗って、数時間。
 あるサービスエリアに立ち寄った。
「咲。こっち」
「?何かあるんですか?」
 食事かお手洗いかと思っていた咲は、直樹が建物とは違う方向へ行くのに首を傾げながら付いていく。
 その先には。
「……!うわぁ……綺麗……っ」
 展望台から見晴らしのいい景色が眺められた。
「ここのサービスエリアは絶景ポイントで有名でな」
「本当に凄く見晴らしがいいです!あ、そうだ写メ……」
 そうして咲が携帯を取り出そうとすると、隣からカシャという音が聞こえてきた。
 咲が音のした方を見ると、直樹がデジカメを持っている。
「こっちで撮る方がいいだろ」
「はいっ」
 そうして二人は景色を撮ったり、側にいる人にシャッターを頼んでツーショット写真を撮ってもらったりした。


 十分に景色を堪能した二人は、再び車に乗る。
「他にもどこか連れて行ってくれるんですか?」
「まあな」
 だがやはり直樹は行き先を咲に教えずに車を走らせる。
 やがて車は高速を下り、市街地を走り始めた。
 そうして次に行き着いたのは。
「海っ!海ですよ、直樹さん!」
 窓から見える景色に咲は小さな子供のようにはしゃぎ、直樹は苦笑する。
「そんなにはしゃぐな」
「だってぇ……」
 シュンとした咲は、それでも嬉しさを堪えきれないのか、口元が緩んでいた。

 車から降りた咲は、浜辺を走って波打ち際まで行く。
 季節外れの海は、人の姿は殆ど見えないかと思いきや、パラパラとサーファーがいるようだった。
「夏に来たら、この浜辺も人で一杯になるんだろうな」
 ゆっくりと歩きながら咲の傍に立った直樹は、ポツリとそう呟く。
「そうですね。でも……」
「でも……何だ?」
 何かを言いかけて止めた咲に、直樹は聞く。
 すると咲は躊躇いがちに口を開く。
「な、夏に来れたら……いいなって……」
「俺と来たい?夏の海」
「で、でもでもっ!夏休みとかって、絶対に知ってる人に会わないって保障、ないし……直樹さん、カッコイイから……きっとナンパとかされちゃうだろうし……」
 だんだんと語尾が小さくなっていく咲に、直樹は微笑む。
「そんな事心配してんのか?馬鹿だな」
「だって……」
「近場の海ならともかく、遠くの海に行けば行く程、会う確立の方が低くなんだよ。ま、その場合は泊まりだけどな」
「と、泊まり……」
「それにナンパなんて断るに決まってるだろ?お前がいるのに。それよりも……お前の水着姿を他の野朗共の目に晒す方が嫌なんだけど?」
「……っ」
 直樹の言葉に、先程から咲は真っ赤になって何も言えないでいる。
 そんな咲を直樹は優しく抱き締め、耳元で囁くように言う。
「ま、来年の夏は考えておこうか。海」
「……っはい」

 暫くそのままだったが、咲は平常心を取り戻すと直樹の腕から抜けて、波打ち際で思い切りはしゃぎ始めた。
 浜辺に文字を書いてみたり、波と追いかけっこをしてみたり。
 そんな咲を、直樹は時々写真に撮りながら優しく見つめていた。


 帰り道。
 海ではしゃぎ疲れたのか、咲は車の中で眠ってしまった。
「十分楽しんだみたいだな……」
 咲はお土産にいくつか貝殻を拾ったみたいだった。
 その内の一つを手に持って、今はぐっすり夢の中だ。
 そんな咲の寝顔を時々横目で見ながら、直樹は一人呟く。
「……いつも我慢ばっかさせてごめんな?デートらしいデートもしてやれなくて……」
 直樹が普段できる事といえば、家の中で過ごすか、こうして車で遠出する事ぐらいだ。
「それでも俺は、手放せないんだ。お前の事……」
 そうして直樹は、寝ている咲の頭を片手でそっと撫でてやった。


=Fin=