直樹は時々、実家の自分の部屋に置きっぱなしにしてある本などを必要に応じて持っていく事がある。
その日も直樹は探し物をしていて。
咲は彼の探し物を手伝う事にした。
≪アルバム≫
「そっちはどうだ、咲」
「うーんと……ダメです。こっちにはないみたい」
「そっか……じゃあやっぱりもう向こうにあるのか?持って行った記憶はないんだがなぁ……」
目的の本が見つからず、首を傾げる直樹の横で、咲はあるモノを見つけた。
「あ……」
「見つかったか?」
「え、あ、ううん。……コレ、見てもいいですか……?」
咲がおずおずと差し出したのは、直樹の高校時代の卒業アルバムだった。
「あー卒業アルバムか。懐かしいな……でもこんなの見ても面白くないぞ?」
大して興味なさそうな直樹の反応。
だけど咲はどうしても中が見てみたいと思った。
自分の知らない、直樹の高校時代の姿。
今の自分と、同じくらいの歳の……。
「でも……」
渋る咲に直樹は苦笑する。
「そんなに見たいなら、いいよ」
その瞬間、咲の表情がパッと輝く。
「本当ですかっ!?」
「ああ」
喜んでアルバムを開く咲を、直樹は愛しそうに眺める。
そんな直樹の視線には気付かず、咲はページを捲り、直樹の姿を見つけた。
「あ、見つけた!うわー、直樹さん若い……」
思わず口から出てしまった言葉に、直樹がムッとした口調で反論する。
「失礼な。俺は今でも若い」
「あ、すみませんっ!でもやっぱり、何か今より幼い感じというか……」
咲は慌てて謝り、いい訳めいた言葉を口にする。
だが直樹はフッと息を吐くと、懐かしそうに呟いた。
「あぁ。この頃はまだまだガキだったと思うよ」
「そうなんですか?」
「今思えば、な」
そこにはきっと、年を重ねないと分からないであろう何かがあって。
咲はちょっとだけ、直樹との年の差を恨めしく思った。
気を取り直してページを捲っていくと、部活動ごとの集合写真があって。
「直樹さんてやっぱり弓道部だったんですね……袴姿、キリッとしててカッコイイです」
カッコイイ、と言われ、直樹は少し照れた。
「別に、前にも見た事あるし、写真だってやっただろ」
確かに袴姿は以前に見た事があるし、今は咲の宝物となっている大学時代の写真もあるが。
やはり高校生の頃と比べると、また違って見える。
「でも……やっぱりカッコイイです」
咲がそう言うと、直樹は照れ隠しなのか、話題を変える。
「な、咲。この頃の俺と今の周りの男共、どっちがいい?」
その問いに、咲は顔を真っ赤にさせた。
そんなの、決まりきってる。
でも、言うのはちょっと恥ずかしい。
「えと、その……直樹さん、です……」
俯いて小さな声でそう言う咲に直樹は満足し、ついでにもう一つ聞く。
「じゃあさ……この頃の俺と、今の俺、どっちがいい?」
「っえぇ!?それって、どっちも同じなんじゃ……」
「答えて、咲」
ニッコリと有無を言わさない笑顔で、直樹は答えを促す。
咲は暫く迷った後、答えを口にする。
「うぅ……そりゃ、年齢的にはやっぱり同い年ぐらいの直樹さんですけど……今の直樹さんが、好き、です……」
だって、過去は過去でしかない。
いくら見た目の釣り合いが取れるといっても、咲が好きになったのは“今”の直樹だし、“過去”の直樹がどういう人物だったかも知らないのだ。
その答えに、直樹は嬉しそうに咲を抱き締める。
直樹は内心ホッとしていた。
咲がちゃんと“今”の自分を選んでくれた事に。
“過去”の自分も“今”の自分も同じ人物に変わりない。
だから、「どっちも同じだから、選ぶ意味がない」という答えが返ってきてもおかしくなかったのだ。
だけど。
咲は選んでくれた。
どっちも同じ“自分”だが、明らかに“過去”と“今”とでは物の見方も考え方も違うと言えるから。
ようするに少しだけ嫉妬していたのだ。
過去の自分に。
馬鹿馬鹿しい事だとは思うけれど。
「咲。俺も好きだよ……愛してる」
耳元でそっとそう囁き、更に顔を真っ赤にさせる咲に、直樹は口付けた。
=Fin=
−おまけ−
「で、咲。お前のアルバムは?俺の見たんだから、お前のも見せろよ」
「え……や、その……じ、実家デス……」
「じゃあ親に送ってもらえ。俺だけ咲の小さい頃の写真見れないなんて不公平だ」
「えぇ!?何ですかその理屈!私が見たの、高校の時のアルバムだけじゃないですか」
「だってお前、その気になれば俺の小さい頃の写真だって見れるだろ?この家のどこかにはあるんだし……というか、俺に内緒で見るつもりだろ」
「う……」(図星)
「今度ちゃんと送ってもらえよ?でなかったら……どうなるか分かるよな?」
「ぅ……はい」
−Fin−