突然ですが。
 生田咲、只今ちょっとしたピンチですっ!


≪充電≫


 話は数分前に遡る。

 休み明けの月曜の朝、咲はメールで直樹に数学教官室まで呼び出されたのだが。
「失礼しま〜す……」
「やっと来たか……ちょっとこっち来い」
「ふぇ?」
 教官室に行くと、そのまま直樹に腕を掴まれて人気のない階段の方まで連れて行かれた。

「もー限界」
「ちょ……!?」
 訳も分からず付いて行った咲だったが、いくら人気がないとはいえ、直樹に突然ギュッと抱き締められて、流石に慌てる。
「直樹さ……!誰かに見つかったら……っ」
「誰も来ねーよ。特に早朝のこんなトコ」
「でも……っ!」
 なおも抵抗する咲に、直樹はとんでもない事を言った。

「いいからキスさせろ」

 その言葉に、咲は思わず即答する。
「嫌ですっ」
 すぐに、しまった、と思ったが後の祭り。
 直樹は絶対零度の笑みを浮かべていた。
「ほぅ……?“嫌”だと……?」

 怖……っ!
 ヤバイ、怒ってるよ〜っ!
 咲ちゃんピーンチ……。

「お前なぁ……俺がどれだけ我慢を強いられたと思ってんだ?」
「そ、それはぁ……」
「お前は平気な訳?ちょっとは彼氏を労わろうとは思わないのか?あ?」
 まるで脅すような口ぶりだが、これには実は訳があった。


 先週と先々週はテスト週間で。
 流石に普段勉強を教えるのとは訳が違い、一応家で逢うのは自重しようという事になって。
 二週間、お互いの姿が見れるのはほぼ授業中だけだったし、後はメールと携帯で少し話すだけの生活で。
 しかもテスト明けの週末は、突然直樹の姉の直枝が遊びに来て(しかも泊まりで)、殆ど恋人らしい事は何もできなかったのだ。


「二週間だぞ?二週間満足に触れる事もできないで、しかも週末は折角二人きりの時間を取ろうと思って、必死にテストの採点終わらせたってのに、 あのバカ姉貴に貴重な時間邪魔されて……もー限界だ。こんな状態で授業なんかできるかっての」
「……直樹さん……」
「つー訳で、キスさせろ」
 そう言うと直樹は有無を言わさず咲の唇を塞ぎ、SHRの予鈴が鳴るまでたっぷりと味わった。


「おっし、充電完了♪」
「……っ……」
 思う存分咲の唇を貪って満足気の直樹に対し、咲は顔が真っ赤で。
「どうするんですかぁ……こんな顔じゃ、教室に入れないですよ……」
「ん?そこはほら、今から教室までダッシュすれば、顔赤いのもごまかせるだろ」
「……直樹さんのバカ……」
 そう言いながらも、結局咲は教室まで走って戻った。


=Fin=