≪運命≫


 それは、いつものように実家の方の直樹の部屋での事。
「そういえば、どうして咲はウチに下宿する事になったんだ?月羽矢には寮もあるってのに……」
 ふと思い付いたように言った直樹の疑問に、咲も首を傾げる。
「そういえば……最初は、一人暮らしは心配だから、って寮に入る話も出てたんですけど……」
「咲も知らないのか?」
「はい。急に“下宿先が見つかったから”って、お母さんが」
「そうか……お袋なら知ってるかな?」
「聞いてみますか?」
 そうして二人は、直樹の母親にその事を聞く事にした。


「え?咲ちゃんがウチに下宿する事になった理由?」
「はい。おば様なら知ってるかと思って……」
 すると直樹の母親は、楽しそうに笑った。

「実はねぇ……咲ちゃんのお母さんと私、同級生だったのよ。高校で」

 その言葉に、咲と直樹は少なからず驚く。
「そ、そうだったんですか!?」
「マジかよ……」
「まぁ、私は当時にしては珍しく、早く結婚したし。逆に咲ちゃんのお母さんは、晩婚だったから」
 話によると、直樹の母親は十代の内に結婚し、咲の母親は三十近くで結婚した、との事だ。
「それで、昨年の同窓会の時に色々話をして。そうしたら咲ちゃんが月羽矢の寮に入るっていうじゃない。ちょうど直枝も結婚したばかりで部屋が空いちゃったし。 どうせ下宿させるなら、知り合いの子供の方が気が楽じゃない?」
 そうして、その口からさらに衝撃的な言葉が発せられた。

「ていうか、二人共小さい時に一度逢った事があるのよ?」

「は……いつ!?」
「アンタが小学生の時。咲ちゃんはまだ赤ちゃんだったから、憶えてないと思うけど」
「何で!?」
「何でって……生まれたばかりの咲ちゃん連れて、一度遊びに来た事があるから。アルバムのどこかに、アンタが咲ちゃん抱っこしてる写真もあったと思うけど」
「どこに!?」
「知らないわよ。アンタが持ってるアルバムのどこかに貼ってあるんじゃない?」
 その言葉に、直樹は咲の手を取ると自分の部屋に駆け戻った。


「探すぞ。アルバムどこだ!?」
「は、はいっ」

 そうして二人はアルバムを探して。
 押入れの奥の方の段ボール箱の中にあるのを見つけた。
「あった……本当に写ってやがる……」
 それには確かに、直樹が赤ん坊を抱っこしている写真があって。
「これが、咲……」
「何か、よく分かんないですね……」
「俺も。確かにこんな事あったような気もするけど……」
 そうして直樹はしみじみと言う。
「こんな昔に、出会ってたんだな、俺達」
「そうですね……」

「……運命、ってヤツなのかな。出逢うべくして出逢ったっていうか……」

 ポツリと直樹が言った言葉に、咲は彼に寄り添って言う。
「そうだと、嬉しいです」
 はにかんだ笑顔の咲に、直樹は「俺も」と言って、キスをした。


=Fin=