咲と直樹の年の差は十歳だ。
 だが普段は同じ学校という空間にいる事もあって、共通の話題には事かかないと言えよう。
 それでも。
 やはり十年の差を感じる時はある。


≪ジェネレーションギャップ≫


 TV番組の改変時期になると、TVでは特番が多くなる。
 そうすると大抵、昔と今を比べるような番組が多くなったりして。
 それは曲だったり、ドラマだったり、流行だったり。
 それらの番組を見ると、どうしても直樹は咲との年の差を意識せざるを得ないのだ。

「お、このドラマ懐かしいな」
「そうなんですか?」
「このドラマの主題歌とか、よくカラオケで歌ったな……お、そうそうこの曲、この曲」
 直樹が懐かしさに浸っていると、咲は少し苦笑しながら言う。
「……私は、この曲ちょっと知らないです」
「知らない?……何年前だっけ、これ」
「えっと……あ、八年前ですね」
「八年前ってーと……俺、高三か」
「じゃあ私は、小学校の低学年ですね」
 咲のその言葉に、直樹は一瞬固まる。
「……って事は、ドラマやってる九時台にはもう寝てた……?」
「そうですね。それにこの頃だと、歌番組よりアニメ見てたと思います」
「……そうか」
 この当時に出会ってたら、間違いなく咲は恋愛対象外だし、もしそれでも好きになっていたら完全にロリコン扱いだ。
 それを考えると、十歳の差って結構あるな、と思ってしまう。
「ところで咲は、カラオケでどんな曲歌ったりするんだ?」
「え……やっぱり最近の、ですね。ここ二〜三年の」
「……じゃあ一昔前のは分からないか。って事は、一緒にカラオケ行っても、俺の歌う曲は知らないのばっかりなんだろうな」
「古い曲でも、ベストアルバムとか出てる歌手のなら分かるのもありますよ?」
「でも俺が歌うの、最近はあんまり曲出してない歌手のとか多いからなー……」

 というか。
 最後にカラオケ行ったのいつだ?というくらい行ってないし。
 最近の新曲も、知らないのが多くなっているし……。

 そんな事を思いながら、直樹は内心焦る。
 教師になってからというもの、仕事が忙しくて年々流行から遠ざかっている気がするからだ。
 それに比べて、咲は一番流行に敏感な世代。
 只でさえかなりの年の差なのに、話が合わなければすれ違ったり、相手と一緒にいてもつまらなくて別れてしまうケースもあるだろう。

 そういえば、と直樹は更に思い出す。
 最近の流行語が分からない時がある。
 この間、話の合間に出てきた流行語が分からなくて、咲に聞いた事もあるし……。

 その事実に直樹がヤバイと思っていると、咲に心配そうな声を掛けられた。
「あの……どうかしたんですか?」
「あ、いや……咲はその……つまらなくないか?時々、俺と話が合わない時とか……」
 つまらないと思われていたらどうしようか、と心配しながらも、直樹はそう口にした。
 だが。

「うーん……そうでもないですよ?」

 予想外の言葉が返ってきて、直樹は驚く。
「え?」
「だって、知らなかった事とか知れるし、直樹さんが“いいな”と思ったモノを知れるのは嬉しいです」
「咲……」
「昔の事を知るって、多分大切な事だと思うし……それで興味を持てたら、共通の趣味とか好きなモノが増えるんですよ?それって素敵じゃないですか?」
「……そうだな」
 咲の言葉に、直樹は何だか暖かい気持ちになる。

 ようはモノの捉え方なのだ。
 話が合わないからつまらない、ではなく。
 色々な事を教え合って、その中でお互いに“いいな”と思えたモノを共有する。
 そうすればそれだけ視野は広がるし、新しい発見もあるだろう。

 きっと、好きになる、というのはそういう事なのだ。

「これからも、よろしくな」
「?はい」


 相手の見てきた事、聞いた事、感じた事。
 それは絶対に自分とは違うモノだから。
 ジェネレーションギャップがあっても、相手を好きなら案外関係ないのかもしれない。


=Fin=