≪熱〜翌日談〜≫


 熱を出して休んだ咲だったが、翌日には回復し、普通に登校した。
「オハヨ、桃花、幸花」
「咲ちゃん、おはよー」
「熱はもういいの?」
「うん、もう平気。ごめんね?心配掛けて」
 咲がそう言うと、だが二人は顔を見合わせ、プッと吹き出す。
「……どうしたの?」
「いやね?昨日の早坂センセ、思い出しちゃって」
「そうそう。咲ちゃんにも見せたかったなー」
「直樹さんが、どうかしたの?」
 ワケが分からず首を傾げる咲に、二人は面白そうに話す。
「センセってば、咲ちゃんが熱出してお休みなのがよっぽど気になってたんだろうねー。授業中ずっと上の空」
「え」
「うんうん、数式もしょっちゅう間違ってたし。龍矢さんに聞いたんだけど、教官室でもずっとそんな感じだったって」
「……本当に?」
 まさかそんな事があるハズない、というように、咲は怪訝そうな表情をする。
「本当だよー。弓道部も早く切り上げて、そそくさと帰ってったって」
「お見舞い、来てくれたんでしょ?」
 そう聞かれ、咲は途端に恥ずかしくなって頬を染める。
「やっぱりねー。で、何かあったの?」
 興味津々、といった感じで聞いてくる二人に、咲はもごもごと口篭りながら言う。
「えっと、ね?よく覚えてないんだけど……目が覚めたらね?手を、握っててくれて……」
「それで?」
「そ、それで……何か、私がそれをお願いしたみたいで……」
「手を握ってて下さい、って?」
 恥ずかしそうに頷く咲に、二人は、きゃー、っと騒ぐ。
「それって、お願い聞いてずっとそうしててくれたって事でしょ?いいなぁ」
「うんうん。今度熱出したら、私も凍護君にお願いしてみようかなぁ」
「あ、私も!龍矢さんにお願いしたい」
 と、そんな風に話していると始業のチャイムが鳴り、朝のSHRの為に直樹が入ってきた。
「席に着けー。HR始めるぞー」
 その様子はいつもの直樹で。
 咲は二人の話が本当なら、その姿も見てみたいな、と思った。


=Fin=


勿論、三人の会話は小声で。