≪ワガママ≫


 文化祭のクラス企画“アロマキャンドル作りの体験”の準備の時、アロマキャンドルの作り方を把握する為に、一度クラス全員がキャンドル作成をした。
 それは勿論、直樹も同様で。
「……直樹さん、作ったキャンドルどうしたかな……」
 そう呟きながら、咲は自分で作ったキャンドルを眺める。

 咲の作ったキャンドルの色は水色だ。
 直樹が作っていたのと同じ色。

「直樹さんが作ったのと、交換したいな……」

 例え同じ物を作っていたとしても。
 やっぱり、好きな人が作っていた物は特別だし、できれば自分が作った物は彼に持っていて欲しいと思う。

「……明日、聞いてみようかな」
 そう決心して、咲はキャンドルを鞄にしまった。


 次の日のお昼休み、キャンドルを手に咲はこっそりと数学教官室を覗いてみる。
「何してんだ?」
 すると後ろから声を掛けられ、咲は慌てる。
 振り返るとそれは直樹本人で。
「や、あの、えっと……」
「……俺に逢いに来た?」
 ニヤリと口の端を上げて言われた言葉に、咲は素直に返事するしかない。
「……はい」
「ま、入れ。どうせ中にいるとすれば龍矢ぐらいだし」
 直樹にそう促され、入るとそこには誰もいなかった。

「……で?何か用?」
 突然抱き締められてそう聞かれ、咲は一瞬言葉に詰まる。

 この状況で切り出すのは何だか物凄く恥ずかしい気がする……。

 だが言わない訳にもいかないだろう。
「あ、の……キャンドルって、どうしました?」
「キャンドル?あぁこの間の……それがどうかしたか?」
「その……交換、しませんか?」
 おずおずとそう言いながら、咲はキャンドルを差し出す。
 それを見て直樹は、クスリと微笑う。
「俺と同じ色」
「……そうしたんです」

 同じ色なら、交換してもバレない。
 でも、作ったその日には言えなくて。
 だからこうして改めて持ってきたのだ。

「でも、交換するなら家で言うとか、メールすれば持って行ったのに」
 直樹の指摘に、咲は首を横に振る。
「……できれば、ここに飾って欲しかったから」
「家じゃなくて?」
 面白そうに笑う直樹に、咲は頷く。
「ダメ、ですか?」
「まさか。でも何で?」
「……学校では、先生と生徒でしかないじゃないですか。だから……」
 咲のその言葉の意味を理解して、直樹は満面の笑みを浮かべた。


 学校でも、些細な事でいいから恋人としていたい。
 それは咲の、小さなワガママ。


=Fin=


勿論、交換したキャンドルは数学教官室の直樹の机の上。