≪誕生日≫
ある日のお昼時、朱夏は思い出したように璃琉羽に聞いた。
「あ、そうだ。璃琉羽って、今度の金曜だっけ?誕生日」
「うん、そうだよー。え、何?ケーキ作ってくれるの?」
「うん。リクエストある?」
「えっと、じゃあね……アレがいい。チーズケーキ。何か混ぜてマーブル状になったやつ」
そのリクエストに、朱夏は暫し考える。
「……ああ。前に作ったやつ?チョコとチーズ混ぜたやつね」
「そう、それ!あれ美味しかったから〜」
璃琉羽のリクエストしたチョコマーブルチーズケーキは以前、弓道の大会の時に作った事がある。
「分かった。じゃあ作ってくるね」
「ありがとう〜朱夏ちゃん大好きっ」
そう言う璃琉羽に、朱夏は少し苦笑した。
朱夏は親しい相手の誕生日には、ケーキを作るようにしている。
ケーキ等の場合、ホールで作るものが多い為、食べたくても気軽に作れないのが欠点だ。
だから朱夏は誰かの誕生日だとか、部活の大会がある時は作る事が多い。
流石に生クリーム系は保存や持ち運びの関係上、家族の誕生日とかにしか作れないが。
金曜日になって、朱夏はお昼時に作ってきたケーキを出す。
「はい、璃琉羽。お誕生日おめでとう」
「やった!朱夏ちゃんのケーキ♪」
「はい、智もどうぞ」
「ありがとう、朱夏」
「う〜ん、おいしー♪」
「そう言ってもらえてよかった」
朱夏は毎回いつも、食べて貰う時は内心ドキドキしている。
勿論自分で味見もするが、相手もおいしいと思ってくれるかどうか分からないからだ。
「もう朱夏ちゃん、いっその事ケーキ屋さんになったら?」
「私もそう思う。だってこんなに美味しいんだもん」
よくそう言われるが、朱夏はいつも決まって苦笑しながら言う。
「無理だよ。私結構作る時いい加減だし」
「そう?あーでもこれならホールで食べれそうなんだけど」
「ホールはやめといた方が……」
そんな風に話していると、智が思いついたように言う。
「そういえば白山君には誕生日ケーキ、作ってあげるの?」
「……あー、どうしよっかなぁ……」
「作ってあげたら喜ぶんじゃない?」
「うー……でも、食べるかなぁ……?」
朱夏のその言葉に、三人は考える。
「食べない、かな」
「そもそも、ケーキを進んで食べそうにない」
「というか、甘いもの、あんまり好きじゃなさそう……」
口々にそう言って、暫く沈黙が流れる。
「……取り敢えず、聞くだけ聞いてみたら?」
「えぇー」
「えぇー、じゃなくて。ね?」
二人に言われて、朱夏は聞く事にした。
「ねぇ、愁。その……愁の誕生日、なんだけど」
「あ?誕生日なんて、とっくに終わったけど?」
「終わっ、た?」
「うん。知らなかったっけ?俺、7月生まれ」
「あ、そう。ならいいの、うん」
そういえば誕生日いつか聞いてなかったなーとか今更思いながら、朱夏は二人の元へと戻る。
「誕生日、終わってた」
「あ……そう、なんだ」
「……ら、来年があるよ!その時にしよ、うん」
そう風に話していると、今度は愁が傍に来た。
「そういえば、朱夏って誕生日、いつ?」
「あ、私も7月」
「終わってんじゃん……」
そんな二人を見て、璃琉羽が小さく言う。
「……普通そういうのって、付き合い始めの時に確認しない……?」
その言葉に、朱夏と愁はお互い気まずそうな表情をした。
=Fin=
普通じゃないカップル(苦笑)